「1万円超のTシャツが売れている」と聞けば、首をひねる人も少なくないだろう。それもブランドロゴも柄も見当たらない無地のTシャツ。ユニクロやヘインズなら1000円台でも質の高いものが買えるのに、なぜそんなものが売れるのか? なぜ高いのか? 毎年、膨大な数の新作Tシャツをチェックする筆者が推したい“プレミアム無地T”を紹介しよう。(全2回の1回目、#2に続く/取材・構成=押条良太)
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「1万円以上のTシャツ」の驚き
一枚1万円以上のTシャツ。100年以上前の時代に生きていた人が聞いたら、さぞかしびっくりするだろう。なにせTシャツは、もともと“肌着”だったのだから。
Tシャツの起源は第一次世界大戦中、ヨーロッパの兵士たちが着用した肌着にある。第二次世界大戦中にはアメリカ海軍が白いTシャツを採用し、復員した学生たちが大学で着続けたことで広く浸透したといわれる。ただ、この時点では、一枚で人前に出られるような服ではなかった。
1950年代にマーロン・ブランドとジェームス・ディーンが映画にピタッとした白いTシャツ一枚で登場し、若者たちが熱狂した。Tシャツは肌着からイケてるヨソイキ服となった。
その後、企業広告に使われたり、ヒッピーやパンクロッカーのシンボルになったり、Tシャツはカルチャーとなっていく。
日本では、1990年代にはTシャツをスーツに合わせる「カジュアルフライデー」が浸透し、ビジネスシーンで着る人たちが出現。こうした流れを受けて、有名デザイナーたちが高額なTシャツを作り始めた。同時に装飾性を削ぎ落したデザインを美徳とするミニマルファッションも徐々に浸透していく。
「シンプルカジュアルの時代」へ
2000年代に入ると、「フツーこそカッコいい」というシンプルカジュアルの時代が到来。やがて都会的でリラックスしたシティボーイのスタイルが誕生し、ベーシックな定番服がもてはやされるように。このあたりに、無地Tシャツがスターダムに躍り出る下地が生まれた。
こうして現代のTシャツ像ができあがっていった。特徴を挙げると、
(1)デザインはシンプルで、ブランドの主張はさりげない
(2)無地で、色は白や黒、ネイビーなどのベーシックカラー
(3)着心地のよさや機能性といった付加価値がある
ポイントは(3)で、素材の質やテクノロジー、製法などにこだわることでコストが上がり、値段も上がる。ただ、それでも「買う価値がある」と判断されたものだけが、値段の壁を超えて生き残ることができる。
今回はそんなプレミアム無地Tシャツの中から、筆者が「高くても買いたい」と思う6点をピックアップして紹介する。