飴には辛口と普通味の2種類があり……

 飴には辛口と普通味の2種類があった。「試作段階で『もっとパンチを効かせた方がいい』という意見が出て、辛口は生姜の量を2倍にしたのです。まるで生姜を食べているような感じがして、私は『やりすぎだ』と思いました。体がカッカするぐらいで、風邪が治ったような気がすると言い出す人までいて……。でも、人気があったのは辛口の方でした」と徳久さんは笑う。

 待望の飴を食べたやなせさんがどんな感想を持ったか、残念ながら徳久さんは聞いていない。

 一方、「ハガキでごめんなさい全国コンクール」。こちらも紆余曲折がありはしたものの、全国から2676通もの応募があった。最高賞の「大賞」に選ばれた高知市の会社員は「アンパンマンコンサート」が開かれた体育館の壇上で審査委員長のやなせさんから表彰された。

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今年は「ハガキでごめんなさい全国コンクール」のイベントが東京都新宿区でも開かれた。中央はコンクール実行委員長の西村太利さん

 この年の7月、第三セクター・土佐くろしお鉄道「ごめん・なはり線」の開業2周年を記念して、「後免町駅」に「ありがとう駅」という愛称がつけられた。

 同線は開業時、地元からの要望でやなせさんが当時の全20駅にキャラクターを描いてプレゼントした。

 後免町は交通の要衝だけに、他にもJR土讃線「後免駅」、路面電車のとさでん交通「後免町駅」があって、ややこしい。そこで「ごめん・なはり線」の「後免町駅」は愛称を付けて分かりやすくしてはどうかという、やなせさんの発案だった。

 なぜ、「ありがとう」なのか。

「ハガキでごめんなさい全国コンクール」が始まると、謝罪もさることながら、感謝を込めた「ごめんなさい」が多数寄せられた。しかも、やなせさんは「『ごめん』と『ありがとう』は互いに響き合う言葉」と考えていたようだ。そう書いた文章もある。

 徳久さんはそうしたやなせさんのメッセージを「排他的っていうか、他者を認めない思考は人類にとって滅亡への足音でしかありません。だからこそ、ごめん、ありがとうと日常的に言える人間関係を作っていかなければならないと感じています」と受け止めている。過酷な戦争を経験したやなせさんだからこその人生哲学かもしれない。