高知県南国市の後免(ごめん)町は、「アンパンマン」を生んだ漫画家、故やなせたかしさん(1919~2013年)が18歳までの約10年間を過ごした故郷だ。しかし「家族」が相次いで亡くなり、医院も廃業するなどしたことから縁が切れていた。少年時代の思い出が詰まったライオンの石像を地元の小学5年生が医院の跡地で見つけたことがきっかけとなり、やなせさんは約70年ぶりに母校の後免野田小学校を訪れる。商店街はシャッター通りと化していて、かつて賑わったまちの面影はなかった。84歳になっていたやなせさんは、寂れたまちを元気づけるために後免町の人々と動き始める。

「ごめん生姜アメ研究会」メンバーが、高知空港でやなせたかしさんを出迎えた。こうして交流が深まっていく(徳久衛さん提供)

『フクちゃん』の横山隆一、4コマ漫画のはらたいら、『土佐の一本釣り』の青柳裕介、『赤兵衛』の黒鉄ヒロシ、『毎日かあさん』の西原理恵子……。やなせさん以外にも多くの著名な漫画家を輩出した高知県は「まんが王国」を自称している。

「横山隆一記念まんが館」が設けられた「高知市文化プラザかるぽーと」では、毎年夏休みに「全国高等学校漫画選手権大会(まんが甲子園)」を県などが主催しており、生前のやなせさんも審査員長を務めた。

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「こうした事業の関係で、やなせ先生は県庁とはやり取りをしていました。やなせ先生のお父さんが生まれた香美市にも市立やなせたかし記念館ができました(1996年開館)。でも、南国市とは一切縁が切れていたのです」。徳久衛(とくひさ・まもる)さん(64)が語る。

 徳久さんはその後、やなせさんと連絡を取りながら、後免町のために奔走するキーマンだ。ライオンの石像について尋ねる手紙をやなせさんに書いたクラスの子の保護者でもあった。

 後免町は江戸時代に造られた人工河川「舟入川」によって拓かれた。

舟入川。この橋の向こうに材木店があり、やなせたかしさんは材木のイカダに乗って遊んだという

 舟入川は物部川から取水して、高知市の浦戸湾まで流れる。高知城下と行き来する舟運に用いられたほか、農業用水としても重要な役割を果たした。後免町は舟入川の中間点に位置する荒れた土地だったが、農業地帯に変わっていく。開発の陣頭指揮に当たった土佐藩の執政は物流拠点の商業地にしようと、移住者に年貢や夫役を免除した。このため当初は「御免町」と名づけられ、後に「後免町」と表記を変えた。