「小学生の25人に1人、中学生の10人に1人が不登校」と言われている、近年の教育現場。身近な子が不登校になってしまったとき、私たちに何ができるのか。

 40年以上にわたり、教育相談に携わってきた海野和夫さんの著書『不登校を克服する』(文春新書)より、不登校から立ち直った子どもたちの事例を抜粋して紹介する。(全3回の3回目/1回目から読む

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19歳男子、近所の消防団の関与

 高校2年のとき、喘息が悪化し、アトピー性皮膚炎にも苦しめられ、勉強が手につかず学力不振に陥った。希望する大学にも入れそうになくなり登校意欲が低下し、学校を休むことにした。

 この高校は進学校で、両親から「折角入ったのだから、行きなさい」と強く勧められたが、拒否した。出席日数が不足しそうになった段階で、学年主任と学級担任から、休学か退学か、進路変更か、の選択を迫られ退学した。親には嘆かれた。

写真はイメージ ©yamasan/イメージマート

 高校を退学して2年目の19歳の男子青年は毎日を無為に過ごしていた。母親は息子がこのまま引き籠もりになることを恐れ、近所の自営業の男性に相談した。彼は消防団に関係しており、「消防団に入れ」となり、一度の面接で消防団に入った。子どもは、この男性が顔を見据えて言った「人の役に立て」の一言で消防団入りを決めた。

 18歳を過ぎていたので、役所から入団が認められ、特別職公務員になった。この男性の手配によって、ヘルメット、消防服(防火服)、手袋、長靴などが支給された。

 ちなみに、消防団は地方公共団体の消防とは別に、地区ごとに分団が多数あり、分団のなかに部が置かれている。彼が入った消防団は、第〇〇分団第〇部であった。

 団員たちはこの男性を部長と呼んでいた。部員はこの青年を入れて14名、詰所があり、消防自動車が1台配置されている。

 火災の際は出動となるが、大抵は、分団の地域かその近くの火災への出動となる。仕事は、毎月1回のポンプ点検、春と秋の火災予防運動の一環としての地区内の見回り、出初式への参加、地区内のお祭りの警備や交通整理、冬季の「火の用心」のための消防車での夜回り、詰所清掃などである。詰所に出向く回数は案外多い。