“体験型”エンタメの今後
加藤 「DETECTIVE X」の企画と前後して、SCRAP社内にミステリー研究会が発足したんですよ。月に1冊、課題図書を読んで集まって飲むだけなんですが、同じ読書体験をした人が集まって喋るだけで、こんなに豊かな時間になるのかと驚くほど楽しい。読書というのはとても個人的な体験だけど、同じ時間軸、同じ空間で楽しむ方向を模索すると新しい展開もありえるのかなと。15年以上、体験共有の可能性を信じてリアル脱出ゲームというものを作ってきたけど、リアルタイムでの物語の共有には、僕らがまだ気づいていないエンターテインメントの可能性があるんじゃないかと考えています。
道尾 小説もゲームもユーザーのものなので、作者側から使い方を云々するものではないですよね。でも、最大限に楽しめる方法をユーザー自ら考えてくれるのは嬉しい。例えば、あるミステリー作家が「DETECTIVE X」を2セット買って大きな会議室に集まって2チームで挑戦したそうです。僕は全然想定していなかったやり方だけどとても楽しそう。たぶん、解決後にチーム同士で話し合ったりするんでしょうね。
加藤 従来の謎解きファンであれば、圧倒的に複数でやる人が多いと思います。9割は、誰かと話し合いながら楽しむと思いますよ。
道尾 僕がやるとしたら絶対に1人がいい。全部の推理を自分でしたいし、他の人が謎を解いてしまったら僕はアハ体験を一つ逃すことになりますし。昔からあまり人と共有をしたくないタイプなんです。ただ、リアル脱出ゲームはタイムリミットがあるから、時には人を頼らないと間に合わない。協働すること自体が僕には新鮮な面白さでもありました。
加藤 僕らは150人いる会社で常に協働しているので、逆に道尾さんの“1人で全部”に驚くんですよね。
道尾さんは、思いつきのためのルーティーンって何か決めていますか? 僕が社内でよく言うのは、閃き、思いつきというのは神の啓示のように降ってくるものではない、思いつくための段取りを習慣化しなくてはいけないということ。散歩とかお風呂とか、決まったメンバーで2時間ブレストすれば必ずアイデアが出るとか、何でもいいけどルーティーンが必要だと。
道尾 最近、脳科学の分野で発見されたデフォルト・モードというのを実践しています。何もしていない時の脳を指してそう呼ぶんですけど、実は脳は仕事中などに較べて“何もしていない”状態のほうが10倍、20倍のエネルギーを消費していると判明した。どうやら、人間がぼーっとしている間に脳は回路を組み直す作業をしているらしいんです。このデフォルト・モードの時に閃きが出やすいということを知ったので、なるべく何もしない時間を作るようにしています。
加藤 どのくらいのレベルで何もしないんですか?
道尾 インプットを全部オフにするので、スマホもさわらないし音楽も聴かない、ただソファに寝転がってぽかんと天井を見上げるだけ。
加藤 すごい。脳科学に基づくルーティーンが出てくるとは思いませんでした。大至急、会社でも調べてみます。
