「テンプレは避けてきた」“作品を俯瞰する”河合のスタイル
河合が語る演技についての言葉はいつも明晰だ。デビュー後、間もない2021年のインタビューでは、すでに自分の演技についてこう語っている。
「テンプレは避けてきました。『こうなるだろう』というのは裏切りたい。だからどうするとか、最初から意識しているわけではないですけど、台詞を口にしたり、ふと動きが出たときに、典型的なものは避けて通る気はします」(「Yahoo! JAPAN ニュース」2021年12月19日)
作品全体を俯瞰して、シーンごとの方向性やゴールを見定め、逆算して演じるのが、河合のスタイルである。
「私は元々、作品全体を整理するためにもシーンを並べて書き出してみて『ここで大きな転換がある』というポイントを見つけたら、そこに向けてどう流れを作っていくかを考えるタイプ」(「GQ JAPAN」2024年9月23日)
売春を強いられ、薬物に溺れる少女を演じて感じたこと
そのような演技の組み立て方をかなぐり捨てたのが、実在の少女をモデルにした主人公・杏を演じた『あんのこと』だ。親に虐待され、売春を強いられ、薬物依存症になり、すでに自死してしまった「彼女の人生を生き返す」という入江悠監督の言葉どおり、モデルになった少女の足跡を丁寧にたどり、彼女のことだけを考えて演じた。
「この女性を私が守りたいと思ったし、これから心の中で彼女と手を繋いでやっていこう、という気持ちになったのを覚えています」(「リンネル.jp」2024年6月11日)
『あんのこと』をはじめとする出演作を通じて、河合本人の意識は大きく変わり始めている。「好き」「楽しい」という情熱や感情だけでなく、自分の出演する作品の意味を考えるようになったという。
映画、ドラマ、舞台を問わず、どんなテーマの作品でも、真剣に作品をつくれば、必ず作品に社会や時代が映ってくる。「社会派」でなくても、真剣に作品をつくれば、社会とつながり、メッセージや問題をはらんだ作品になる。彼女はそう考えている。




