約20年前、医師から長男が発達障害だと告げられた、朝日新聞記者の太田康夫さん。「発達障害のある子どもを持つ親としてさまざまな知識を得たい、情報を求めている方々に向けて、 役に立つ記事を発信したい」という想いで発達障害当事者や家族、支援する人の取材を続けている。

 ここでは、そんな太田さんが今年5月に上梓したノンフィクション『記者が発達障害児の父となったら』(朝日新聞出版)より一部を抜粋。発達障害がある2人の子どもの母親で、自分自身にも発達障害があると自覚しているくすのきゆりさんのエピソードを紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)

写真はイメージ ©yamasan/イメージマート

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赤ちゃんのころから手がかかった長男

 1997年に長男が、2002年に長女が生まれた。

 長男は、赤ちゃんのころからとても手がかかった。

 なかなか寝付かず、夜通しでだっこをする日が続いた。

 音に敏感で、水道の蛇口から水が出る音や、テレビのコマーシャルで大きな音がすると大泣きした。

 くすのきさんが3時間まとめて寝られるようになったのは、長男が3歳を過ぎてからだった。とてもデリケートな子どもで、自宅以外の建物に入ることを嫌がった。

 クリーニング店に一緒に連れて行くと、どうしても中に入ろうとしない。

 長男を店の前に待たせて、くすのきさん1人で店内に入ろうとすると大泣きする。仕方なく、道路から大きな声で店内のスタッフを呼び、店外に出てきてもらって、衣類の受け渡しや会計をすることが何度もあった。