「『死に方教えたろうか』と教え子を恫喝した 史上最悪の『殺人教師』」。この強烈な言葉に見覚えはあるだろうか。これは今から22年前の小誌平成15年10月9日号のとある記事の見出しである。

 福岡市で起きた「教師による児童へのいじめ」を報じたこの記事は全国規模の報道合戦を引き起こし、問題の「殺人教師」には法廷で正義の鉄槌が下されるはずだった――。

 この事件を取材したルポルタージュ、福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』が映画化される。その監督を務めたのが『十三人の刺客』や『悪の教典』で知られる三池崇史さんだ。

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三池崇史監督

「原作を読んで、出てきた人間に対する著者の屈折した人間愛を感じました。このルポの魅力を映画として表現する方法を強く意識していました」

 ある日突然、小学校教諭の薮下誠一(綾野剛)は児童・氷室拓翔(三浦綺羅)への体罰で保護者の氷室律子(柴咲コウ)に抗議される。学校に押しかけた氷室夫婦に叱責される薮下の姿には、身に覚えのない内容に困惑しつつも、教師が保護者に強く言えないという昨今の力関係などリアルな苦悩が感じられる。

 薮下を演じる綾野剛さんとは、『クローズZERO Ⅱ』以来16年ぶりのタッグだという三池さん。

「最初は、喋らないし正直なんだかわからない男だった。でも、キャスティング後の彼の振る舞いを見てると『日傘を差す姿が合うな』とか『こう見えて凶暴なんだな』とか役のイメージが湧いてくる。作品への向き合い方を見ればわかる。そうやって互いに信頼して努力するのが理想の俳優と監督の関係だと思う」

 映画冒頭では、食い違うそれぞれの言い分が薮下と律子の双方の視点から描かれる。律子の視点で描かれるのは、差別的発言と拓翔への暴力を繰り返す問題教師・薮下。

 一方、薮下の視点で描かれるのは、同級生に暴力を振るう問題児・拓翔に対してしつけとして行われた、たった一度の軽いビンタだった。

©2007 福田ますみ/新潮社 ©2025「でっちあげ」製作委員会 
配給:東映

「同じシーンなのに視点が変わると全然違う。2人いたら2つの時間が流れてるわけですよね。どっちがどこまで真実かはわからない。世間が信じ込んだ薮下の姿と本人の証言、その両方を映像として観ることができる。映画の手法だからこその面白さがある」

 結局、薮下は律子の夫・拓馬(迫田孝也)たちに責められ、その場を収めるために体罰を認めて謝罪してしまう。そして、その「体罰を認めた」という事実が週刊誌記者の鳴海三千彦(亀梨和也)に知られ、過激な言葉に彩られた実名報道によって拡散される。

「演じる俳優の皆さんも人気者になって注目される代償を少なからず経験している人たち。だからこそセリフに重みが出る。そのリアリティを、観客の皆さん、特に中高生のような次の世代の人たちに届けたい」

みいけたかし/大阪府出身。バイオレンスを中心にホラーやコメディなど幅広く手掛けている。1991年に監督デビュー。2011年には『十三人の刺客』で日本アカデミー賞優秀監督賞受賞、同年に『一命』、13年に『藁の楯』がカンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映されるなど国内外で高く評価されている。

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映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』
6月27日(金)公開 配給:東映
https://www.detchiagemovie.jp/

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