ツイッターブルーローンチの騒動直後にツイッターを辞め、それがボスの不興を買ったことはわかっていた。ニューヨークタイムズ紙に署名記事が載ったのもよくなかった、近くで働く人にははっきりわかるほどいらついていたという話も聞いた。それでも、まさか、マスクが全力でたたいてくるとは、その結果、インターネットの片隅でぶつぶつつぶやかれているだけで、無視しても大丈夫だった悪意が陰湿で容赦のないものに変わるとは思っていなかった。
きっかけは1日前の午後。突然だった。マスクは、なにやらごくふつうの悪意に反応していた。そこへ、2010年11月とツイッターで働き始めてもいない大昔にヨエルが投稿したツイートをフォロワーのひとりがぶら下げた。
高校生が実効的な同意のもとで教師とセックスすることはありえるのか?
このツイートには、物議を醸しそうなこの問題についてどこかの誰かが書いた論説にリンクが張られていた。挑発的なツイートではあるけれども、ミートゥー運動やキャンセルカルチャーが広がる前にはわりとふつうに投稿されていたし、ヨエルも、いまならおそらくは投稿しないだろうとはいえ、こうして掘り出してこられただけであれば、さざ波が起きるくらいですんだはずだ。1億2000万人のフォロワーを前に、イーロン・マスクがこう反応しなければ。
あ~、なんかいろいろ腹落ちしたわ。
加えて、短剣のように鋭いツイートの追い打ちまであった。
博士論文を見るかぎり、ヨエルは、インターネット上のアダルトサービスに子どももアクセスできるようにすべきだと主張しているように思える。
このツイートには、ペンシルベニア大学の学生としてヨエルが書いた論文、300ページから抜き出した1段落の画像が添付されていた。まだティーンエージャーの若いゲイが、かなりの人数、グラインダーなどのゲイ向け出会い系サイトに登録している理由を分析している段落である。
具体的には、グラインダーなどのサイトは「猥褻にすぎる」し「することばかりが目的となっている」ため「ティーンエージャーにとって安全で適切なリソース」ではないにもかかわらず、現実には、18歳未満の子どもが多く集まる場になっている、よって、「ゲイの若者文化にふさわしくない場だと、このようなプラットフォームを切り捨てればいいわけではない。サービスプロバイダーは、単に法的責任を免れようとするのでもなく、まして、ティーンエージャーを一掃しようとするのでもなく、幅広い使い方ができる安全戦略の構築に注力すべきである……」と論じている部分だ。
この段落に書かれていること自体は、それなりに議論のある内容だが、300ページの論文における位置づけとしては、全体のテーマとあまり関係のないさまつなポイントだ。
しかし、それがツイートという形になると、しかも、イーロン・マスクが、ツイッター買収から1カ月半で集めたいわゆる中道右派のフォロワーに向けて書いたツイートという形になると、告発以外のなにものでもなくなってしまう。