2022年10月、イーロン・マスクがツイッター社を買収。その後、わずか1カ月半で社員数を4分の1に減らすなど、マスクが行った改革は大胆なものばかりだった。彼はなぜ、どうしてツイッターを手に入れたかったのか?

 ここでは、ノンフィクション作家のベン・メズリックによる『Breaking Twitter イーロン・マスク 史上最悪の企業買収』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋。

 ある真夜中、グローバルセールスマネージャーのジェシカ・キタリーのもとに届いたメールとは――。衝撃的なツイープス(ツイッター社員)大量解雇の裏側を紹介する。(全4回の2回目/続きを読む

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イーロン・マスク ©時事通信社

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真夜中のメール

 そのメールをジェシカが見たのは真夜中を少しすぎたころ、木曜日が金曜日に変わったあたりだった。目の前の机はノートパソコンがやっと載るくらいの大きさしかない。部屋はクイーンサイズのベッドひとつでほぼ満杯で、余裕がないのだ。ツイッター本社ビルの正面玄関からマスクが入ってきて以来、彼女が帰るといえば、ここ、すなわち、サンフランシスコにあるホテルの一室である。

 夜はズームで家族と話をするつもりだったのに、気づいたときには遅くなりすぎていた。マスクは、ビデオ通話が終わるとすぐ、大会議室を飛び出して舎弟軍団に合流していたが、ジェシカは、そのあと夜遅くまで、ロビン・ウィーラーらマーケティングと営業のチームと部屋にとどまったからだ。ジェシカはフォローの電話を顧客にかける担当だった。でも、大丈夫ですよ、なにも心配することはありませんと明るく話ができる雰囲気ではとてもなかった。部屋の向こうでは、社員の名前と成果が並ぶスプレッドシートを前にロビンらがああでもないこうでもないと、背筋が寒くなる目的に使うリストを作っているのだから。

 そんな長い1日を終え、ジェシカは、ホテルの部屋に戻り、小さな机に身を落ちつけたわけだ。ミニバーからなにか赤いもののデミボトルを取りだす。ワイングラスはなし。部屋に用意されていないし、ルームサービスを呼ぶのはちょっと遅すぎて気が引ける。それに、デミボトルと言われると、カッコよさげであるとともに、ちょっとだけワルの雰囲気もある。そんなことを思いながらメールをチェックする。お腹に一発食らったような気がした。マスクが舎弟とともにいなくなる前、大会議室で少しだけながら将来を楽観した自分を殴ってやりたい気分だ。