このツイートを見た瞬間、ヨエルは驚き、そして、恐怖に震えた。こういうツイートこそ、ヨエルらトラスト&セーフティが介入し、できれば、なるべく静める、抑える、もみ消すなどしてきたものだ。しかしマスクは、マスクらしく行動し、真逆をした。自分のフォロワーというツイッター最大のメガホンを使い、喧伝したのだ。すぐさま、彼のフォロワーでも最悪の連中が動きはじめた。

 このあとヨエルが経験した憎しみの嵐は、すさまじいなどという言葉で表現できる程度ではなかった。最初は不快なコメントがつく程度だったものが、ほどなく脅しに変わる。

 媒体もツイッターからメール、ボイスメールと広がり、さらに、オンラインからリアルへと広がった。

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※画像はイメージ ©AFLO

「さらし」にあうのは――個人情報をインターネットに公開されるのは――独特の怖さがある。自分に憎しみをぶつけてくる匿名の人々が自分の暮らしを、人生を、個人情報を、それこそ住所にいたるまで共有しているというのは、ソーシャルメディアに点在する闇に棲むトロールがそうしているというのは、背筋が寒くなる以外のなにものでもない。

 会社では存在感が格別にある仕事をしていたが、ヨエルは、目立たないように歩んできた人物だ。ネットに残る足跡も、少なくとも最近までは、驚くほど少なかった。

 マスクがツイッターを買収したときヨエルの名前が浮上したのは、トラスト&セーフティの仕事をしていたからだ。ヨエルの古いツイートが掘りおこされ、きわめてリベラルな政治姿勢が明らかになったときにも、マスクは、それはヨエルの個人的な意見にすぎず、それで彼の仕事が影響を受けるといったことは起きていないと擁護している。

 ところが、辞任のあと、特に、11月28日にマスクが予告したプロジェクトが始まると、ヨエルに対して悪い評価が増えていく。

 言論の自由の抑圧に関するツイッターファイルが、近いうちに、ツイッターそのもので公開される予定だ。本当のところなにが起きたのか、世の中に知らせるべきだろう……

 続けてもう一言。

 これは文明の未来をかけた戦いだ。米国でさえもが言論の自由を失う事態になれば、あとには圧政しか残らない。

 ツイッターファイルとは、ツイッター社内のコミュニケーションチャンネルを元にしたデータやメール、劇的な推論がずらりと並ぶツイートスレッドで、それを作成・投稿した人は、マット・タイービ、バリ・ワイス、リー・ファング、マイケル・シェレンバーガー、デビッド・ツヴァイク、アレックス・ベレンスンなど、保守系から革新系までそうそうたるジャーナリストがそろい踏みという感じである。

 マスクの予告から数週間、ほぼランダムに投稿されたツイッターファイルにより、ツイッター1・0の社内でなにが行われていたのかがかなり明らかになった。なかでも、ハンター・バイデンのノートパソコンに関するニューヨーク・ポストの報道を抑え込むと決めた経緯や、トランプ大統領のアカウントを凍結すると決めた経緯など、批判の多いシャドウバンやアカウント凍結をどう決断したのかが公になったのは大きい。FBIをはじめとする国の安全保障機関との関係も判明。情報の提供やアカウントの凍結、ツイートの削除などをするよう、大物政治家が圧力をかけてきたり要請してきたりしていたことも確認された。