ロックは途方にくれた。

「こういうときはさぁ」――小声だ。

「シミュレーションの世界にいるのかなと思っちまうよ。だって、ねぇ、これが現実のはず、ないじゃん」

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 そして、気を取り直したように一言――

「今日は、このステージに上がれてうれしいよ」

 これで終わりにできると、シャペルが安心したように引きとる。

「いい機会だから言っておかないとね。火星初のコメディクラブはぼくにやらせてくれ。約束だよ? マスク」

 あとは閉幕に向けた流れとなる。マスクは逃げるようにステージを降りた。

 このイベントがいかに悲惨であったかは、トレンドになってしまうほどたくさんのツイートが翌朝にかけて流れ、世間が詳しく知るところとなる。そして、朝9時13分、ようやくのことでマスクもこの件を取りあげた。さすがに放ってはおけないと思ったのだろうか。

 現実は歓声90%にブーイング10%というところだったが(静かだったときを除く)、それでも、ブーイングは多かったし、リアルでは初めての経験だった(ツイッター上ではよくある)。頭のネジが飛んだサンフランシスコの左派の神経を逆なでしてしまったかのようだった……んなわけないかぁ。

 シャペルに並んでステージに立ち、ブーイングの嵐を浴びていたときと同じくらいぎこちないツイートだ。

 今回の経験はひとつの開眼、無条件に認められてきた名声に対する痛打だと言えるだろう――2カ月前まで、マスクは、メディアでもオンラインでも、天才とか刺激的とかアントレプレナーとか、必ずそういう言葉で語られていたのだから。

 それが、今回、ブーイングに追われてチェイスセンターを後にするハメになった。つい先日買収した会社の本拠地だというのに。そう、人員削減と似たペースで収益が減っている会社の。

最初から記事を読む 真夜中の会議室にイーロン・マスクがドスドスとやって来て「今晩も、か…」ツイッター女性社員が必死に抗った“新CEOの暴挙”