JRと東京メトロが乗り入れる「西船橋」と、京成本線が乗り入れる「東葉勝田台」を結ぶ鉄道の東葉高速鉄道。東京メトロ・東西線の利用者なら、「東葉高速線直通、東葉勝田台行き」というアナウンスを一度は聞いたことがあるはず。

 しかし、実際に東葉勝田台を訪れたことのある人は、なかなかいないのではなかろうか。その意味で、多くの人にとって不思議な路線と言えるかもしれない。

東葉高速鉄道の車両。西船橋駅にて(筆者撮影、以下同)

 実はこの東葉高速鉄道、運賃が非常に高いことで知られる。定期券代を見ると、東葉高速鉄道の西船橋~東葉勝田台が6カ月で14万5210円、ほぼ同じ区間で京成の京成西船~(京成津田沼~)勝田台は同7万1660円なので2倍以上である。こうした度を越えた高額運賃を長らく維持しており、原因は「経営上の問題」であるという。

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 ならば経営不振なのだろうかと思うだろう。それが、違うのだ。このたび発表したばかりの、2024年度の事業報告・決算を見てみよう。

利用者数:5614.1万人(1日平均15.5万人)、前年度比3.8%増 
運賃収入:158.5億円、前年度比3.7%増

 前年度比で利用者数も運賃収入も成長しており、営業利益も58.4億円と順調そのものだ。

利用者も業績も好調なのに、なぜ運賃が高止まり?

 全線わずか16.2キロ、乗り通しても20分少々の路線でこれだけ稼げるのなら、鉄道会社としては笑いが止まらない大黒字だ。ただしここに「長期債務の残高2143億円」「年間の利払い、約10億円」が加わると聞けば、どうだろう。

 長期債務の中身は「建設費用」。沿線の人家もまばらだった1996年の開業当初から、2948億円という莫大な額を運賃で返していく重すぎる十字架を背負わされた。この債務が未だに2143億円も残っているため、設備改修もままならず、黙々と稼いだ利益が利払いに消えている。

 だから値下げができない——という話ではあるが、恐ろしく高額な運賃を支払わされる沿線住民は、たまったものではない。

 昨今の鉄道建設は「国、自治体、JRTT(旧:鉄建公団)が3分の1ずつ負担」が基本であり、特殊なケースとしてはリニア中央新幹線のように「政府主導の財政投融資」といった優遇の下で建設される場合もある。そんな中、大手私鉄でもない第3セクターの会社(千葉県に加え、八千代市や船橋市などが出資)である東葉高速鉄道が、開業当初から3000億円近い債務を抱えて走るのは、どう考えても「無謀」としか言いようがない。

 東葉高速鉄道はなぜ、このような経営体制になり、利用者が「高額運賃」という苛烈なしわ寄せをこうむったのか。経緯と原因をたどってみよう。