運賃が下がり、利用者が増えた鉄道会社も

 例えば、私的整理の一種「事業再生ADR」(裁判外紛争解決手続)は参考になるかもしれない。第三者機関が仲介する形で、例えば「千葉都市モノレール」であれば「県の出資金100%・市は98.2%減資」のような債務放棄が行われた。

 一定の利用者と社会的な必要性がある鉄道会社なら、債務の軽減によって経営は楽になり、設備改修や値下げの検討を行いやすくなる。ただし自治体は債務放棄などの損失から逃げられないのが難点か。

「埼玉高速鉄道」も事業再生ADRによって債務超過を解消しており、浦和美園駅北側(岩槻方面)への延伸を計画している

「北神急行電鉄(兵庫県)」のように、地元(神戸市)が買い取って市営地下鉄の一路線にする例もある。600億円以上に及ぶ債権放棄は議論を呼んだものの、2020年6月以降に運賃は大幅に安くなり、利用者はコロナ禍前と比較して3割も増加しているという。

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 ただし、これらの案件はいずれも債務が1000億円以下。東葉高速鉄道は現在でも2000億円を超える長期債務と500億円以上の累積損失を抱えており、事情が違う。

 近年では、同じP線として長期債務に苦しんでいた北総鉄道(千葉県)のように、空港輸送による採算の改善によって、自社で値下げを決断できる事例も出てきた。しかし、これまた事情が異なる。北総鉄道は既に累積損失を解消しているし、空港輸送の有無という点でも違う。

北総鉄道の車両、東松戸駅にて(同前)

 東葉高速鉄道の沿線では、選挙のときに候補者が「東葉高速鉄道の値下げを実現します!」と声高に叫ぶものの、債務整理などの具体的な手法は語られず、誰も行動しない。「黒字だから、運賃値下げできるだろう!」という主張は、空虚に響く。運賃値下げを熱望されても、その元凶である債務・累積損失には誰も踏み出せないのが東葉高速鉄道の現状だ。

 幸いにして、P線制度は、千葉急行電鉄(現:京成千原線)のように、支払いに行き詰って会社が消滅するケースまで生み、2003年の特殊法人再編とともに公団ごと消滅した。その悲しき“功労者”ともいえる東葉高速鉄道は、自治体と鉄道会社、沿線の人々の落としどころが見えないままに借金に追われながら、今日も健気に走り続けている。

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