北朝鮮の最高指導者・金正恩総書記の母である高容姫。彼女は大阪で生まれ、小学校4年生まで日本で過ごした在日コリアンだった。北朝鮮に「帰国」したあと、持ち前の美貌でトップレディの座を射止め、故金正日総書記との間で2男1女を産み、育てた。
誰もが知っている人物でありながら、北朝鮮では最も隠された存在でもある。金正恩自身すら、自分の母親について公の場で話したことはないという。
ここでは、ジャーナリストの五味洋治氏が徹底的に取材を重ねて高容姫の実像に迫った『高容姫 「金正恩の母」になった在日コリアン』から一部を抜粋。パリで亡くなったという彼女の晩年の姿に迫る――。(全5回の4回目/続きを読む)
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白い帽子と車いす
パリで妻が死んだことを知った金正日は泣き崩れたと伝えられる。北朝鮮の高麗航空の特別機と高級な棺をパリに送り、亡骸を納めて移送、平壌に安置した。葬儀は家族と側近が参加した中で極秘裏に行われた。長年連れ添った妻の死が、金正日の心に穴を開けたのは間違いない。
私は、彼女が最後の時間を過ごしたジョルジュ・ポンピドゥー欧州病院について調べてみた。日本にいるフランス人記者や、フランスの大学で教える朝鮮半島の専門家、この病院で研修を受けた日本や韓国の医師にも問い合わせた。私の話に興味を示す人や協力を申し出てくれる人もいたが、具体的な証言は得られなかった。
諦めかけていたころ、私は思いがけなく数枚の写真を関係者から入手した。容姫が治療を受けたポンピドゥー病院で撮影されたものだという。

