北朝鮮の最高指導者・金正恩総書記の母である高容姫。彼女は大阪で生まれ、小学校4年生まで日本で過ごした在日コリアンだった。北朝鮮に「帰国」したあと、持ち前の美貌でトップレディの座を射止め、故金正日総書記との間で2男1女を産み、育てた。

 誰もが知っている人物でありながら、北朝鮮では最も隠された存在でもある。金正恩自身すら、自分の母親について公の場で話したことはないという。

 ここでは、ジャーナリストの五味洋治氏が徹底的に取材を重ね高容姫の実像に迫った『高容姫 「金正恩の母」になった在日コリアン』(文春新書)から一部を抜粋。北朝鮮の万寿台芸術団で「柳日淑」と名乗ってダンサーをしていた高容姫と、金正日総書記の馴れ初めとは――。(全5回の1回目/続きを読む

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目鼻立ちのはっきりした女性

 踊り子時代の高容姫に関する証言はほとんどないが、同じ芸術団に所属していた申英姫は自分の著作の中で高容姫に触れている。身近で彼女を見た、ほぼ唯一の証言と言っていいだろう。

日本公演で主役を演じる高容姫(朝鮮画報より)

 金正日は彼女に特別な感情を抱いており、練習室にしばしば訪れて彼女の踊りを見守っていた。高英姫(ママ)は身長が高く、目鼻立ちのはっきりした美人で、周囲からも高い評価を受けていた。彼女は金正日との関係が深まるにつれ、徐々に公の場から姿を消し、同棲を始めたと噂された。

 

 彼女は金正日の正妻ではなかったが、厚遇され、彼との間に子どもをもうけたとの話も伝えられている。北朝鮮では金正日が正式に結婚していたかどうかは不明であり、彼のプライベートな生活については多くの謎が残っている。(『私は金正日の「踊り子」だった』)