「こはると妻と一緒に、日本を見てみたい」積み上げたキャリアや実績を手放せたワケ
――なるほど。それでも、ミシュラン一つ星といった、積み上げたキャリアや実績を手放すのには、相当な勇気が必要だったのではないでしょうか。
勢太 正直、賞や積み上げてきたものを守り続けなければいけない、という思いはほぼなかったですね。それよりも「今、何がやりたいか」の方が僕にとっては大切でした。
実は僕自身、10代はシンガポール、20代前半はヨーロッパにいたので、日本のことをあまりよく知らなかったんです。日本には仕事で年に1、2回帰るくらいで、滞在時間も短いから、ゆっくり見て回ったこともありませんでした。
だから、こはると妻と一緒に、日本を見てみたいという思いがすごく強かった。特に、これからどんどんたくさんのことを吸収していくこはるに、日本の美しい四季や自然を目で見て、肌で感じさせてあげたい、という気持ちが大きかったですね。
――シンガポールでは四季や自然を感じることが難しいのですか?
勢太 シンガポールは常夏の小さな国で、山も川もあまりありません。綺麗で清潔で安全ですが、人工的な都市国家です。
一方、日本には四季があり、大自然に恵まれている。料理人としても、日本の豊かな食材にずっと憧れていました。
キャンピングカーで日本を巡る旅を開始
――いつシンガポールのお店を手放したのでしょうか。
勢太 2023年5月にシンガポールのお店を手放し、翌月には日本に帰国しました。帰国して翌月の7月末にはキャンピングカーが納車され、それと同時に家族で日本を巡る旅をスタートしています。
――すごいスピード感です。
勢太 一見そう見えますよね(笑)。ただ、実はこのキャンピングカー、2021年頃にオーダーしたものなんです。
――2021年頃から、日本に戻ることを計画していた?
勢太 そうですね。こはるが生まれてから「キャンピングカーで日本を旅したい」と考えるようになって。

