命を惜しまないで最後までやり抜く

リム 劇中でも語られる「香港映画の精神」。ラウさんにとっては、どんな意味がありますか?

テレンス 僕にとっては、「命を惜しまない、最後までやり抜く」精神だと思います。命をかける!という意味ですね。

 たとえばハリウッドの場合、ユニオンに守られていて、撮影時間にちゃんと制限がありますよね。1日に何時間までしか働けない、というような規定がある。でも、香港映画って、今まで培われてきたものはその逆なんです。

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 ある意味では本当に狂っているとしか思えない(笑)。いざ撮影に入ると、予算やロケ地や俳優のスケジュールの問題なんかもあって、「このページ数の脚本をどうしても今日中に撮り切らなければならない!」という状況になったときには、数十時間、寝ずに休まずに撮影し続けることだってあったりします。

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 他の国の人から見たら、「こんな撮影現場、あり得ないでしょ」って思うようなことを、香港では平然とずっとやってきたんですよね。

 香港って、ルールに従わない。そういうところがあって、それはある意味で「自由」かもしれない。あらゆるものから解放されて、自分たちの信じるやり方で挑戦していく。その精神が、たぶん僕が感じた香港映画の精神なんだと思います。

リム その精神がまさに『スタントマン』のラストで描かれていますね。

テレンス ははは、そうですね。ハリウッドだったら、こういう撮影は絶対に禁止されてますよね(笑)。

幼い頃に胸躍らせたアクション映画

リム 『スタントマン』はアクション映画の裏側を描いた作品ですが、そもそもアクション映画はお好きですか? 印象に残っている作品は?

テレンス 小さい頃、金曜か土曜の夜になると、テレビでよく昔の映画が放送されていました。レンタルDVDを借りて見る人もいましたけど、うちでは週末になると家族みんなが集まって、食事をしながらテレビを見るのが普通でした。その時見ていたアクション映画は僕の成長における大切な体験の一部であり、家族と一緒に見た記憶も含めて、僕の中ではとても貴重なものになっています。

リム 好きなアクション監督はいますか?

テレンス たくさんいますよ。その中でも、一番好きなのはやっぱり健治さんですね。

 健治さんのアクションが好きなのは、彼のアクションそのものというよりも、「アクションはストーリーを語る手段のひとつだ」という考え方に共感しているからなんです。

 良いアクションというのは、戦いが激しかったり、動きが華やかだったり綺麗だったりするだけじゃなくて、物語の展開にちゃんと貢献しているかどうかが大事だと思います。

フィリップ・ン(右)©2024 Stuntman Film Production Co.Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

 たとえば、戦闘シーンが行われる場所の空間的な特徴が活かされているかどうか――観客は、二人の戦いを見るだけじゃなくて、「この空間の中で、二人が走ったり、飛び上がったり、隙間に入り込んだりできるんだ」と驚きを感じる。その人間の動きの可能性に、びっくりさせられるんです。

 あるいは、その空間の中に偶然置いてある道具を使ってアクションを展開させたりする。そういう点では、健治さんは本当にすごいと思います。