……そこで、LCCで香港に向かったのだが、結果から書けば搭乗や入境には何の問題もなかった。クラウド上のデータのチェックをおそれて、メインのスマホやパソコンを全部日本に置いてきたのに、イミグレーションではそのまま通された。心配はまったくの杞憂に終わった。

無事に入境できてテンションが上ったので、激安宿で有名なチョンキンマンションのゲストハウスに22年ぶりに宿泊。1泊なんと150香港ドル(約3000円)で、昔と同じだ。卵とチョンキンマンションは物価の優等生である。2025年7月7日筆者撮影

 ちなみに、2023年6月~2024年6月には、かつてデモに好意的な立場だった日本人がすくなくとも3人、香港空港で入境拒否に遭っている。だが、さらに調べてみたところ、私よりもはるかに香港民主派やデモに肩入れしていたと思える大学教授やテレビクルーの人たちが、なぜかおとがめなく入境できていたことも判明した。

 一連の事例からみる限り、どうやら香港当局は外国人に対する国安法適用には及び腰で、一定以上の社会的身分や発信力がある人(=国際問題や国際ニュースになりそうな人)は、たとえ香港デモの熱心なシンパでもスルーしているという仮説も浮かぶ。過去に入境拒否に遭った3人の日本人は、いずれもそれらの条件には必ずしも合致しない人たちだった。

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 同じ香港人を締め付けることはさておき、北京から押し付けられた国安法をあらゆる外国人に機械的に適用することで、香港の国際的イメージをこれ以上低下(=投資や観光の減少)させたくない。当局のそんな悩ましい心理が透けて見える気がする。

変わらないこと、変わったこと

 現地でいざ歩いてみた香港の街は、一見すると拍子抜けするほど昔と変わらなかった。治安は相変わらず良好で(なお、香港デモの最中も警官隊との衝突現場以外は治安が良かった)、仮に現地に住んでいれば子どもだけでもバスや地下鉄に乗せられそうだ。

 街も普通に活気がある。各地の飲食店も、美味しそうな店は満員だ。往年の九龍城砦の跡地に作られた往年の再現施設は、ちかごろ映画『トワイライト・ウォリアーズ』や漫画の『九龍ジェネリックロマンス』の影響から、日本人の聖地巡礼観光客で混んでいる。

往年の九龍城砦の中心部に再現された当時の街並み。なお、’80年代に実際に九龍城砦のヤミ歯医者で治療を受けた人の話では「当時は他の下町も全部似たような感じだったので、特別な場所とは思わなかった」「ただ、道にいっぱい注射器や銀紙が落ちてると思った」とのこと……。2025年7月7日筆者撮影

 このように、予備知識なく眺めれば、香港は国安法前と現在で違う部分を探すほうが難しい。日本人の観光もビジネスも何の問題もない。だが、よく観察してみるとじわじわと違いも浮かび上がってきた。以下、私が感じたこの5年の香港の変化を挙げていこう。