(2)(4)は、キャシー、ジェーンを性行為のために暴力/強制/脅迫によって他州または他国に移送した嫌疑。フリークオフはニューヨーク州やカリフォルニア州のホテル、時には外国でも行われた。これについても陪審員は無罪とした。今回の裁判は当初より被害者の「同意性」が焦点となっていた。

キャシーは2006年にディディがCEOを務めるレコード会社からR&B歌手としてデビューしていた(本人インスタグラムより)

(3)(5)は、売春を目的に被害者や男性エスコートを州境を越えて故意に移送した罪。被害者に同意があった場合も違法行為であり、この2件でディディは有罪となった。ただし(2)(4)に比べると軽罪だ。

性的暴行、脅迫…ディディへの訴訟が相次ぐ

 ディディからキャシーへの度重なる暴力は、ホテルの監視カメラによる動画が流出したこともあり弁護側も認めたが、DV自体は今回の訴状に盛り込まれていなかった。

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裁判の証拠として米地方検事局が公開した、2016年にディディがキャシーを暴行する様子が映ったホテルの監視カメラ映像(「extraTV」YouTubeより)

 今回の裁判は、2023年にキャシーが起こした民事訴訟(2000万ドルの示談金で和解)がきっかけとなり、連邦がディディに対して起こしたもの。したがって今回の裁判でのキャシーの証言は、キャシー自身に何らかの利益をもたらすものではない。

 キャシーの民事訴訟に触発され、ディディに対して性的暴行、暴力、ビジネス上の脅迫などを訴える男女からの訴訟が相次ぎ、現在80件を超えている。キャシーやジェーンを継続的に虐待しながら、ディディは他の女性たちにも加害していたのだ。

ドキュメンタリー番組も制作された(『ディディ裁判:最新法廷記録』Disney+より)

「素晴らしい父親」としての一面も

 その一方、ディディは「素晴らしい父親」のイメージも振りまいていた。長男クインシーはディディの実子ではなく、キム・ポーター*と前夫でR&Bシンガーのアル・B・シュア!との間に生まれた子だが、ディディは実子と分け隔てなく育てた。三男クリスチャンは父ディディにそっくりであり、ディディは「キング」のニックネームを授けた。
*俳優やモデルとして活動し、断続的ながらディディと最も長く付き合っていた女性。2018年に47歳で急逝した

 ディディは子供たちが16歳になると「スウィート16」と呼ばれる盛大な誕生パーティを開き、車をプレゼントするのが習わしだった。家族全員揃っての写真も頻繁に公開し、メディアがそれを逐一報じた。当時、ディディとの間に子供を持たなかったキャシーはファミリーに加われないことで嫉妬したと語っていた(そのキャシーも裁判での証言を終えたわずか11日後に、夫との3人目の子供を無事に出産した)。

ディディ(中央)とディディの子どもたち(ディディのXより)

「動画を流出されたくなければ2万ドルを支払え」

 ディディの父親はディディが幼い時期に射殺され、母親ジャニスが1人でディディを育てている。母親は今も結束の固い大家族の中心人物であり、息子の無実を信じ、裁判の傍聴にも連日やってきた。

 その母親をディディも大切にしている様子が窺えるが、キャシーの母親には脅迫を行なっていた。フリークオフの動画を流出されたくなければ2万ドルを支払えと恐喝したのだった。ディディにとって2万ドルは取るに足らない金額であり、元アシスタントは恐喝の理由を「キャシーがキッド・カディ*と付き合ったことへの腹いせ」と証言した。
*米国のラッパー。2011年、キャシーがディディとの関係を一時的に解消していた期間に交際していたとされる