ここ数年、ルッキズム(外見で人を評価したり差別したりすること)をテーマにした作品が数多く発表され、話題を集めている。その流れに先駆けて、自身の経験から外見とアイデンティティの問題に関心を持って映画を制作してきたアーロン・シンバーグさん。彼の最新作のタイトルは、そのものずばり、『顔を捨てた男』。現在公開中の本作のストーリーを、まずは見ていこう。

 主人公は、顔に極端な変形を持つ俳優志望の青年エドワード(セバスチャン・スタン)。その外見ゆえに気おくれし、人前では常に控えめに振る舞うことが染み付いてしまっている彼は、劇作家を目指すイングリッド(レナーテ・レインスヴェ)に惹かれながらも、一歩を踏み出せずにいた。そんな時、主治医から画期的な治療を提案され、エドワードは、顔とともに過去を捨て、全くの別人として新たな人生を歩み始める。

アーロン・シンバーグ監督

 数年後、性格も暮らし向きも変わった彼は、自作上演のために俳優を募集しているイングリッドと再会。その内容は、あの当時の彼の姿を描いた物語だった。これは自分の役だと、正体を明かさないまま舞台に立とうとするエドワードの前に、思いがけない人物が現れる。それは、彼が捨てた顔とそっくりな顔をした男オズワルド(アダム・ピアソン)。しかもオズワルドの性格は、かつての自分とは全くの正反対。明るく社交的で、カリスマ性に溢れる人物だった。この出会いがエドワードの人生を再び大きく変えていくことになる――。

ADVERTISEMENT

 さまざまな問いかけを放つ本作への思い入れをシンバーグさんに聞いた。

「私自身、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)があり、外見によって他者からどう扱われるかは、私個人においても大きな関心事です。しかし、それがスクリーン上で適切に描かれたと思ったことは一度もありませんでした。だからこそ、これまでの作品も本作も、個人的かつ強い使命感をもって取り組んできたのです。このテーマが商業的ではなく、また、ある種の批判に身を晒すことになるのはわかっています。しかし、躊躇はありませんでした。これは私自身の経験と感情を描いた物語だからです。多くのインディペンデント映画がそうであるように、そこに疑念は持ちませんでした」

© 2023 FACES OFF RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:ハピネットファントム・スタジオ

 シンバーグさんが言う「批判」や「躊躇」とは何か。それは、オズワルドを演じるのが、実際に変形した顔を持つ俳優アダム・ピアソンであることだろう。しかも、主演俳優は作中の前半、そのピアソンの顔を模したマスクを被って演技をし、さらにはその顔を“捨てる”決心をするのだ。主人公に寄り添いながら物語を追っていく観客は、彼がとる行動の全てに、そのつど心を揺さぶられることになる。