さて、奥木さんは、実はもう1頭警察犬を担当している。ウタ号よりも大きな体躯で体重は37kg、ジャーマン・シェパードのオスのジゲン号(6歳)だ。奥木さんもジゲン号もあらゆる現場を経験してきたが、とある夏、ダイナミックな捜査で大きな“お手柄”をあげた。
崖下に滑落した行方不明者を発見。かけ降りて命を救う
蒸し暑い梅雨どき。山あいのハイキングコースで1台の携帯電話が発見された。持ち主を探したところ、高齢女性が前日から行方不明になっているという情報を逗子警察署が認知する。
すぐに周辺の捜索が始まった。防犯カメラ映像も駆使したが、所在はつかめない。捜索は翌日に持ち越された。
その夜は雨が降った。翌朝、現場にジゲン号と奥木さんが到着した。
午前9時5分に活動を開始する。ジゲン号は行方不明者の枕カバーのにおいを嗅ぐと、すぐさまハイキングコースの崖沿いに立った。崖下をしきりに気にするそぶりを見せる。眼下には、樹々が生い茂る鬱蒼とした山林が広がり、ジメジメして虫も飛んでいる。奥木さんは「躊躇してしまうほどの急斜面だった」と振り返る。
歩く道もなく、人が容易に上り下りできる場所ではない。しかし奥木さんは、ジゲン号の反応を見て、斜面を降りることを決意した。枝の跳ね返りから目を守るゴーグルをつけ、ヘルメットをかぶり、装備を整え崖に入った。藪を掻き分けながら前に進む。
「崖に侵入するときはジゲンには普段通りリードをつけていましたが、木が茂りリードが絡むと危険です。リードを外し、声をかけながら進むことにしました」
ジゲン号は「ガンガン降りる気満々だった」と奥木さん。においのする方へ、ジグザグと器用に下っていったという。


