「倒木で前に進みにくい場所もありましたが、ジゲンが『こっちこっち』というふうに振り返るんです。途中、なかなか進めずにいると、ジゲンが待っていてくれたり。『ジゲンいきな!』『見つけてボール遊びをするぞ』と声をかけながら私も一緒に下りました」

訓練後の遊びの時間。ジゲン号は障害物を軽々と飛び越える姿を見せてくれた 

 とはいえどこまで降りるのかわからない。奥木さんは「本当にここにいるのか」と不安もあったという。しかし、すぐに見つけなければ行方不明者の命に関わる。

「絶対に見つけなければ。この先に不明者がいた場合といなかった場合を想像しました。やっぱ行かなきゃダメだなと。ジゲンを信じて行ってみよう、という思いで進みました」

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崖下からのにおいで救出

 こうして下った谷底で、ジゲン号は座り込んでいた女性を発見する。崖の入り口からは距離にして120mほど。捜索開始からおよそ30分での発見だった。消防と警察がロープを使って救助し、救急搬送された。

 前夜は雨。雨が降るとにおいは流れやすいというが、なぜジゲン号は崖下にいる行方不明者に反応できたのだろうか。赤坂さんはこう語る。

奥木さんを見つめ、指示を聞くジゲン号。周囲に人がいても落ち着いている

「雨によってにおいの痕跡が消えてしまうことはありますが、雨は“不要なにおいを消す”という利点もあるんです。雨によって野生動物などのにおいが抑えられ、そのため崖下からあがってくる行方不明者のにおいをジゲンは感じとることができたと考えられます」(赤坂さん)

 一歩間違えればケガをするような急斜面に入った奥木さんとジゲン号。赤坂さんも現場に足を運び、実際に歩いて驚いたという。「警察犬が反応しても『さすがにそっちにはいないよ』と思ってしまえば、警察犬を行かせないまま終わってしまう。急斜面で、犬を信じてついていったのは本当にすごい」と振り返る。

 警察犬ジゲン号の嗅覚と、信じてついていった担当警察官のタッグによって、行方不明者を無事に発見することができたのだ。