「驚安の殿堂ドン・キホーテ」の生みの親で、無一文から日本を代表する創業経営者となった安田隆夫氏。現在もグループの会長兼最高顧問として精力的に活動する一方、今月15日には「週刊文春」の取材に対し、末期がんの闘病中であることを告白した。

 ここでは、そんな安田氏の新刊『圧勝の創業経営』(文春新書)を一部抜粋して紹介する。

「おそらく私にとって最後の作品になる」と位置づけた同書で、安田氏はかねてより親交のあったニトリホールディングス会長・似鳥昭雄氏と対談を行った。同じビルに入ることも多いドンキとニトリ。2社が掲げる経営方針の“決定的な違い”とは?(全4回の2回目/最初から読む

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安田隆夫氏 ©文藝春秋

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ニトリは商品づくり、ドンキは店づくりに命を懸ける

安田 ドン・キホーテは一部商品の製造はしているものの、すべてではない。その分、我々は「店づくり」に力を注いでいます。お客様に多種多様な商品を、より楽しく、面白く、そして安く買っていただける店を作ることにエネルギーを投入するんです。

 とはいえ開業したころは、私も儲けることに必死で、社員に「早く売れ」「もっと売れ」と言っていました。でも、思いなおしたんです。ドンキを儲けさせようと思って来店するお客様は一人もいない。社員だって「なんで口うるさい経営者のために、身を粉にして働かないといけないのか」と思うでしょう。

似鳥 そうだよね。

安田 ところが経営者としては、自分が儲けたいと思う。この矛盾を解消するために、主語を「自分」から「お客様」に変えて、どうしたらお客様に喜んでいただけるか、と考えるようにしました。

 思いついたのが、きれいに商品が陳列されている売り場ではなく、掘り出し物がないかと探し回る構造の店、商品の数がありすぎて一度では全部見きれない店にしたらどうかと。後ろ髪をひかれる気持ちで去って、家に帰ってから「もう一回よく見てみたいな」と思う店です。店の全ての商品を把握されてしまっては、お客様はそれが必要なときにしか買い物に来なくなってしまう。コンビニなどの業態であればそれでいいですが、うちは時間消費型のビジネスにして、少し時間があるときに、「じゃあ、ドンキにでも行こうか」となってもらおうと。

 その結果、ジャングルのように商品を敷き詰める「圧縮陳列」や、POPを貼りまくる「POP洪水」が生まれました。

似鳥 商品はきれいに整頓して陳列するもの、という常識を打ち破った。

安田 実を言うと、商品を見やすく陳列するほうが、店側からしたら簡単なんです。多種多様な商品をジャングルのように陳列するほうが圧倒的に難しい。ただ、お客様に主語を転換して考えた場合、やはり後者を選ぶべきだと思いました。