シネコンにかけるという目標は果たしたものの、第1作『拳銃と目玉焼』は赤字、第2作『ごはん』は製作費回収までに3年を要した。そんな安田監督の目に飛び込んでいたのは、『カメラを止めるな!』の空前の大成功だった。いま日本映画界を第一線で支える映画監督たちに8ミリ映画など自主映画時代について聞く好評インタビューシリーズ。(全4回の3回目/4回目に続く

左:©︎©藍河兼一/右:©︎未来映画社

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『カメラを止めるな!』の大ヒットを目の当たりにして

安田 1作目の目標がシネコンにかけること、2作目はそのうえでペイすることという目標が僕の中であって、一応目標は果たした。でも400万を回収するのに3年以上かかるんだから、これは仕事としては無理やなと思って。そんな時に『カメラを止めるな!』(2018)の大ヒットを目の当たりにするわけです。

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 そうすると、自主映画でもこれだけみんなが楽しく笑って拍手するような映画やったら恐ろしいほどのヒットが出るんやとすごく嬉しくて。当時の僕のTwitterには、過去の2作品はよく頑張ったと自分では思ったけれども、絶対的な面白さや作品の力が足りなかったと素直に反省して、今後は『カメラを止めるな!』みたいな作品を作っていきたいと思います、みたいなことを書いているんですよね。

『侍タイムスリッパー』企画始動

安田 じゃあ、どんな映画を作るかということを思った時に、ぶっちゃけ全く浮かばなかったんです。ただ、その年に京都映画企画市という、京都を舞台にして、時代劇にテーマを絞った映画の企画のコンテストがあって、それに出そうと色々考えていたら、そういえば何年か前に役所広司さんがテレビCMで、現代にタイムスリップしてきた侍を演じてはったのを思い出して、それがすごく滑稽で面白かったなと。同時に『ごはん』に出てもらった福本清三さん(注1)のことが思い当って、タイムスリップしてきた侍が福本さんみたいな斬られ役に挑戦したら、これは絶対おもろいわと。

『侍タイムスリッパー』©︎未来映画社

 で、パーッとパソコンで打ち出して、30分ぐらいでプロットの原型ができたんです。でもタイムスリップしてきた侍が斬られ役に挑戦するだけやったら、軽めのコメディにしかならへんなと思った時に、撮影所を舞台にしているといえば、僕は『蒲田行進曲』が大好きやったので、あの最後の階段落ちのようなクライマックスを持たなあかんよなと。「屋根から落ちるか。いや、崖から落ちるか」みたいにはじめは落ちることばっかり考えてたんやけども、斬られ役に挑戦する話だから、最後の立ち回りを真剣でやったら結構ドキドキするんちゃうかなと考えて。

 で、真剣でやるんやったら、1人がタイムスリッパーでもう1人が役者やったらそういうふうにならへん。どうしてもタイムスリッパーの侍が2人要るなと。だけど、同時にタイムスリップしてきたらお客さんにすぐ先読みされてしまうから、30年ぐらい時間差のタイムスリップをさせておいて、役者さんを替えてしまってお客さんに気づかれないようにしようと。で、幕末で対立する関係というと、やっぱり佐幕派と倒幕派かなと。主人公にするんやったら佐幕派の会津武士の武骨で真面目な雰囲気がふさわしいだろうと逆算して考えました。