いま日本映画界を第一線で支える映画監督たちに8ミリ映画など自主映画時代について聞く好評インタビューシリーズ。第13弾は自主製作映画『侍タイムスリッパー』が昨年大ヒット、第48回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞するという快挙を成し遂げた安田淳一監督に登場していただいた。(全4回の1回目/2回目に続く

『侍タイムスリッパー』©︎未来映画社

やすだ・じゅんいち 1967年京都生まれ。大学在学中から、様々な仕事を経てビデオ撮影業を始める。幼稚園の発表会からブライダル撮影、企業用ビデオ、イベントの仕事では演出、セットデザイン、マルチカム収録・中継をこなす。2023年、父の逝去により実家の米作り農家を継ぐ。長編映画作品に『拳銃と目玉焼』(2014)、『ごはん』(2017)がある。

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『カメラを止めるな!』のメガヒットは、自主映画でも面白ければ映画館で興行的な成功を収められることを証明した。これからは自主映画からもヒット作が登場するのかと期待したが、続くヒット作品はなかなか現れなかった。あれは一回限りの奇跡だったのかと思いかけていたところ、昨年8月にシネマ・ロサ1館で公開された『侍タイムスリッパー』が上映館を全国に拡大し、興行収入10億円を越える大ヒットとなった。その安田淳一監督は現在58歳で8ミリ経験者だと知り、8ミリ時代から現在の自主映画の状況まで、いろいろ話を伺った。

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高校で友だちの8ミリ映画をアクション監督として手伝い、大学で監督に挑戦

——安田さんは8ミリ世代でもあったんですね。

安田淳一(以下、安田) そうですね。僕は高校時代は柔道部とかラグビー部で、ジャッキー・チェンの真似をよくしていたんですよね。それを見た映研の友達から、カンフー映画を撮りたいからアクションシーンを演出してくれないか、みたいなことを言われて。それで手伝ったのが8ミリフィルムとの出会いで。

——アクション監督をやったんですね。

安田 その時できたものを見ていると、どうも僕が演出したアクションは、カット割りを細かくしているのに、ブツブツ止まってぎこちなく見える。それでジャッキー・チェンの映画がテレビで放送された時にビデオで録画して、見比べたんですよね。ジャッキー・チェンのアクションはすごく細かくカット割りがされているけれど、全部流れている。でも、自分の撮ったものはぶつ切りに見える。コマ送りで見ると、ジャッキー・チェンはカットのつなぎ目を動作の途中でつないでいるということを発見して。その時、これは俺しか知らないすごい秘密やと思っていたわけです。けれども、大学に入ってから図書室で8ミリ映画の編集の本を見たら、まず1ページ目にアクションつなぎについて書いてあった。でも、自分で発見できたということで、その後、編集の中でアクションつなぎをすごく意識できるようになった。

安田淳一監督 ©藍河兼一

——大きな一歩ですね。

安田 それで自分たちでも8ミリ映画を撮りたくなって、大学に入った年に、高校時代の友達と集まって撮り始めるんですけれども、真夏の暑い時期で、「今日は撮影しんどいからどこか遊びに行くか」みたいなことばっかりやっていて。

――結局完成はできなかった。

安田 そうですね。ただ、やるとなったら結構本格的にやっていて、ビルのフロアを1つ全部借りて、中に黄色い床を作って、壁はベニヤ板で水色にして、3人の探偵の話だったんですけれども、主人公は赤で、サブキャラクターがオレンジ色と黄色という感じで、「カラフルな映像を作ろうとしていました。それは、8ミリのフィルムは色が暗いというイメージがあったので、なるべく映るものを鮮やかにしようとして。撮っているうちに、やっぱりフィルム代も現像代も高いし、しかも16ミリとか35ミリに比べると、8ミリの映像というのはすごく不鮮明で不完全な気がして、これに多額のお金をかけるのってどうなんだという疑念もあったし。