撮影所の職人たちの協力
——これだけヒットして、撮影所の皆さんも喜んだでしょうね。
安田 メチャクチャ喜んではりました。床山さんや衣装さんも、「あれは僕たちがやったんやで」って、自分たちの誇りみたいにしてしゃべってくださってるそうで(笑)
——撮影所という場と技術を持ったスタッフ、美術や衣装などの蓄積がなくなってしまうと、時代劇は作れなくなってしまう。そういうスタッフの想いが『侍タイムスリッパー』には込められていますね。
安田 特にテレビ時代劇だと毎回同じようなパターンで、美術さんとかもルーティン的に作ってはるのかなというイメージがあったんです。ところが、今回「この時代はこんな格好ちゃうし、この帯やったらおかしいから、履物はこれにしなあかん」とか、時代考証をしっかりして、リアリティにこだわって美術品とか衣装をそろえてはったのは、すごくうれしい発見で。
あと、東京でやろうとすると、エキストラの素人を連れてきて、衣装を着せてかつらもメイクもしてあげて、動きも教えて、全部手間がかかるわけだけれども、東映京都の俳優部の皆さんだと、自分で衣装を着てメイクしてカツラかぶって、「今日はこの衣装で時間帯はお昼すぎか。そうしたら、ちょうど昼飯食べた後やからゆっくり歩こか」とか、自分で考えてやってくれる。だから、僕らは動きの始点と終点だけ与えて、芝居は勝手に自分らでやってくれるし、カメラを構えた時も、重なりにならないように構図の事まで考えてうまいこと動いてくれる。床山さんとか裏方のスタッフも素晴らしいけれど、出るほうの職人もあそこにはすごくたくさんいらっしゃる。
——撮影所の伝統がそこに残っているということですね。
シネマ・ロサ1館からの公開
——今回の作品はシネコンではなくシネマ・ロサを皮切りに公開したんですね。
安田 やっぱり『カメラを止めるな!』の軌跡をトレースしていく方法を僕は選択したので。『カメラを止めるな!』は正確にはK’s cinemaとシネマ・ロサで2館でスタートしたそうですけれど、僕らはシネマ・ロサの200席を埋めるのがすごく大事だと考えた。完成した映画をシネマ・ロサに送ったら、すぐこれをかけたいと言ってくれた。「自主映画は普通1週間かけるんやけども、これはとりあえず1カ月上映する。でも、1カ月で終わったらこの映画は失敗。この映画は24年の最大のヒットにならないと失敗だと思って僕たちはやるから、安田監督も頑張ってよ」いうので、「頑張ります」という感じやったんです。
おっしゃっていたのは、200席の席を埋めるのがどういうことなのかということです。正直60席、80席の映画館を満席にするのは、ちょっとした自主映画ならできるんだと。シネコンで200席というとミドルクラスのサイズになってくるから、そこを満席にしている映画ってどんなんやって、シネコンが気にし出すと。だからシネマ・ロサでかける意味があるんだということをおっしゃって、僕もそれはすごく納得した。
シネマ・ロサで公開を始めると、お客さんがすぐにネットで大騒ぎしてくれるんですよ。インディーズ映画を何とか応援しようというお客さんがすごく多くて、もう一回『カメ止め』を自分らで作りたいというふうな思いもあったのかもしれない。それをギャガの人とかTOHOシネマズの人とかが見てくれはって。試写室で見ているだけだと、こういう古臭い感じの映画って昔よくあったな、ぐらいにしか思ってないわけです。ところが、シネマ・ロサでお客さんがゲラゲラ笑って最後は拍手しているのを見て、「これは絶対当たるわ」と確信を得るわけです。すぐにTOHOシネマズさんからやりたいという話があって。で、ギャガさんからも配給をやりたいというオファーがあったんです。
