今月、北朝鮮で大型リゾート施設群「元山葛麻海岸観光地区」がオープンした。北朝鮮メディアは連日、同地区で海水浴や室外プールを楽しむ市民の姿を伝えている。写真のなかの市民は皆、ほほえみを絶やさない。怒ったり、しかめっ面をしたりしている市民は一人もいない。心の中はともかく、外見だけはみな「地上の楽園に住む人々」を演じなければいけない。こうした発想の延長線上として、北朝鮮で広く許されてきたのが、美容整形だ。
21世紀の現代でも儒教の思想が色濃く残る北朝鮮だが、美容整形は幅広く行われている。北朝鮮の分析で知られる米国のマーティン・ウィリアムズ氏が今月、米シンクタンクのスティムソン・センター傘下の北朝鮮専門メディア「38ノース」で北朝鮮の美容整形の実態を伝えた。
16年に制定された「整形外科治療法」は、傷痕の修復だけでなく、「審美的に外観の美しさを向上させる」目的での手術も認めている。「健康で美しい外観」を持つことは、「わが国の大衆中心の社会主義体制の本質的な要求」とした。
金日成主席のインプラントの白い歯
脱北者らの証言によれば、北朝鮮では1970年代から、美容整形は盛んに行われていた。当時はまだ、本当に「無償医療」が実施されていた時代で、人々はタダで二重まぶたにしたり、歯並びを矯正したりしていたという。「みな、本当に気軽に美容整形をしていた。近所の人が二重まぶたになって格好いいから、私もやってもらおうといった乗りだった」(脱北者の一人)。医療水準は低く、衛生環境は悪いので、医療事故もたびたび起きた。「腕の良い医者に患者が殺到する。人より早く診てもらおうと、賄賂代わりのタバコを持参するのが日常風景だった」という。
美容整形とまで言えないが、当局自らが外観を整えることに夢中になった。1980年代、日本のメディア代表団が訪朝し、金日成主席と面会した。北朝鮮当局は当時、金主席の首後部にできた大きなコブを撮影させないように必死になっていた。ところが、代表団の一人が偶然、金主席の背中越しに写真を撮ってしまった。たちまち当局者が近寄り、強制的にフィルムを抜き取った。
また、別の写真には、笑顔で語る金日成主席の口元が写っていた。それを見た、専門家の一人はある変化に気づいた。数年前の写真では、金日成主席の下の歯の一部が金歯だったのに、今回は白い歯に変わっていた。当時はまだ珍しかったインプラントの手術を受けたようだった。
