けっして自己都合で遅くするのではない。あくまで職員のことを思ってだと自らに言い聞かせ、就任時の宣言をうやむやにして、午前9時~9時半に登庁するようになった。市長の勤務時間に決まりはないから、これで十分なのだ。

 市長室に入ると、まず新聞6紙にざっと目を通す。朝日、読売、毎日、産経、日経、千葉日報の6紙を、一面、二面、政治面とめくっていく。

 政治経済の情勢をつかむのと同時に、千葉県や千葉県他市の記事に注意を向ける。斬新な政策を打ち出している市に感心しメモを取り、不祥事を起こしている市に肝を冷やしたりしているうちに11時。この時刻になると、市長室のドアを開ける。

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 市長室の前には秘書課があり、そこに椅子が5脚並んでいる。これは市長室への入室を待つ職員が腰かけるためのもので、午前11時ごろにはその椅子は相談や決裁を待つ職員で満席になっている。私が市長室のドアを開けると「入ってOK」の意で、それと同時に待ってましたとばかりに職員が入ってくる。

 1人目の職員は、作成した「ペットの災害対策マニュアル」を持参して、決裁を求める。東日本大震災を受け、災害時にペット連れで避難所に避難するための注意事項を獣医師会の協力のもとにまとめたものだ。ざっと目を通して決裁印を押す。

 2人目の職員は、「市内道路の修繕実行」の起案書を差し出す。市内に14校ある小中学校の通学路の端に緑色の舗装を施す道路補修だ。クルマから通学路の存在を認識しやすくするためのもので、PTAからの要望に応える工事だ。補修箇所がどこかをチェックし、ハンコをつく。

職員がまさかの逮捕、しかも理由は…

 3人目の職員のくもった顔を見て、どうやらよからぬ報告だろうと察する。

「昨晩、××課のT川が飲酒運転で逮捕されまして……。一応、記者発表しておいたほうがよろしいかと」