いかにも実際に悪事の現場を見てきたかのように書かれてあり、読んでみると妙なリアリティーがある。自分のことでなければ、「そうなのか」と思ってしまいそうになる。何も知らない人がこの文書を読めば、本当にそうだと思い込むだろう。額面どおりに受け取らないにせよ、話半分くらいは根拠のあることだと思われるかもしれない。
怒りよりも、困惑と心配がつのった。多くの人の目に触れたら、私の印象はガタ落ちになるだろう。この件を私に知らせてくれた柏市の議員を含め、せいぜい近隣市の議員数人程度に送られただけでありますようにと真剣に祈った。
しかし、その後、「変な手紙が届いた」「妙な文書が送られてきた」と私に教えてくれる人が続出した。私に直接、連絡してくる人だけでこの数だから、送られた先は膨大な数になるだろう。こうしているあいだにも、この手紙が各所に送られ、私にまつわるあらぬ噂が広がっていると思うと、居ても立ってもいられないような焦燥感にとらわれた。
妻にバレた
それにしても、やった側としては、名簿の入手や印刷、封入、切手貼りなど相当の手間と費用をかけている。かなりの人員を動員して大掛かりな作業をしたはずだ。私のことをよく思わない人間がたくさんいて、複数名が協力して取り組んだと思うとそのことに怖くなった。
面倒だったのは、大勢の人に配られた怪文書の内容がまわりまわって妻の耳にも届いたことだ。
ある日、娘が寝静まったあと、リビングにいた妻がぼそっと言った。
「ねえ、柏の女って誰なのよ?」
私は瞬時に、怪文書の内容が妻の耳にも入ったのだと悟った。どこから説明しようかと考えていると、
「あなた、よく公用車に乗って夜に外出してたけど、あれ、柏に行ってたの?」
妻はさらに追い打ちをかけてくる。
私は怪文書がばらまかれていること、その内容は事実無根であることを説明した。私も、女性の知り合いがまったくいないわけではない。だが、幸い柏市に懇意にしている女性などおらず、100%の出まかせだと主張した。
一応、私の説明で納得してくれたようだが、そもそもこういう怪文書がばらまかれたこと自体を、妻は恥ずべきことだと感じていたようだ。