ワンテイクで撮れたクライマックスの感動シーン
――撮影で特に大変だったのはどんなときだったでしょうか。
豊島 クライマックスにあたる、大勢でご飯を食べる「むすびの日」(「のきした-むすびの日」毎月1回、寄付で集まった野菜や参加者が持ち寄った材料を使っていっしょに調理、食事、片づけを行うイベント)のシーンと、その後のパレードのシーンですね。
加藤 あの2つのシーンは、1日で撮影したんです。
――あのクライマックスをほぼ1日で撮ったんですか?
豊島 そうなんです。町の方に大勢協力していただくので、何日もスケジュールを押さえてもらうのは難しくて。実際に上田で毎月13日に行われている「むすびの日」に合わせて撮影し、そのあと行ける人たちで菅平高原に移動してパレードのシーンを撮りました。時間が本当になくて、もう、バスツアーを企画してるのかっていうくらい大変でした(笑)。俳優としては、自分のNGでの撮り直しは絶対に許されないぞ、という気持ちでした。
加藤 特に、主演のヨシノさんを演じた神田(朱未)さんは、私たちなんか比較にならないくらい長いラップを覚えてパフォーマンスしてくれたので大変だったと思います。家で泣きながら練習していたと聞いて……。でもあのラップは本当に、現場で観ていてわたしも泣いてしまいましたし、編集で何度見てもぐっときます。
豊島 本番は、私たち2人が続けてパフォーマンスするシーンと、神田さん1人のカットを、それぞれワンテイクで撮りました。
――あの感動的なシーンがまさかワンテイクだったとは、驚きです。
加藤 本当に奇跡のような時間でした。神田さんは、お客さんのことを見ながら、ヨシノさんとして感情を乗せて、ラップの言葉がどんどん出てくる。町の方たちも、緊張感の中で演じる神田さんを、みんなで見守るように耳を傾けてくれて。本当に、これが撮れたらこの作品は大丈夫だ、と思える瞬間でした。
豊島 その感動に浸る間もなく、私たちは菅平に移動です(笑)。私は先に移動して、皆さんがスムーズに撮影地まで来られるように準備していました。私は昔、旅行会社に勤めていたのですが、当時の同僚を呼んで、誘導を手伝ってもらったり。その他にも沢山の方々にご協力いただきました。パレードのシーンは、夕方で日没までの時間が限られている中、梅雨時で天気も心配だったのですが、なんとか撮りきることができました。最後、撮影が終わるかという時にものすごくいい光が差してきて、照明さんが「この光でもう一回撮らないともったいない!」と言ってくれて。その「泣きの一回」で撮ったのが、映画のラストシーンになっています。

