恐怖症は救いになるかもしれない

©行方不明展実行委員会

――梨さんの作品には異界に惹かれる人が出てくるような気がします。『恐怖心展』に先だって開催されて話題を呼んだ『行方不明展』もそうした面を含んでいましたね。

 言われてみるとそうかもしれません。行方不明は絶望にも希望にもなる、という描き方をしたのが『行方不明展』で、今回の『恐怖心展』や「恐怖症店」では恐怖症は救いになるかもしれないという視点を含んでいます。人の心にはそういう動きがある。それを断罪するわけでも全肯定するわけでもなく、そういうものとして描くには小説というメディアが向いているとも感じました。

――恐怖症を売る店という設定は、人間の心を掘り下げていくうえで、とても優れているなと思います。まだまだ売るべき恐怖症はありそうですし、シリーズ化できるのでは?

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梨さん。

 まだ具体的な考えはありませんが、店主とカタが色んな時代に現れて、恐怖症を売るという連作にはできそうですよね。それと恐怖症と同じくらい関心がある題材は“性愛”。作中にも依存症や性愛を販売する店が出てきますが、それらもアイデンティティと深く関わるものだと思うので、いつか書けたらいいなと思います。

――梨さんは『恐怖心展』のようなイベントの企画、舞台や映像作品にも携わっています。さまざまなメディアで恐怖を表現している梨さんにとって、小説を書くというのはどんな意味を持っていますか。

「恐怖症店」を書いていて再認識したんですが、やっぱり小説をやっている時が一番楽しいんです。短編小説としては過去最大の文字数だったんですけど、手が止まることなくすらすら書けました。今後もいろんな分野に関わることになると思うんですが、小説は自分の中の軸として大切にしていきたい。最近は作家の枠にとらわれない活動をする人が増えていますよね。そんな状況の中で、『恐怖心展』や「恐怖症店」は自分なりに納得のいくものが作れたと思っています。もちろん独立した作品になっていますが、両方楽しんでいただくと、恐怖についてこれまでと違った視点が得られるかもしれません。