――巨大水槽恐怖症を得た少女は、店の助手の少年カタを介して、新たな恐怖症を手に入れようとする。少女とカタの揺れ動く心情がフィーチャーされていて、青春小説のテイストも濃いですね。

 13、4歳くらいの年齢って、自分の恐怖心にあらためて向き合う時期だと思います。幼い頃もさまざまな恐怖を味わいますが、それは原風景のようなもの。思春期になると人や社会との関係も変わり、自分の感情にあらためて目を向けることになる。私がホラーで思春期の少年少女をよく書くのは、それが恐怖に向き合う時期だからなのかもしれません。

なぜ少女はくり返し恐怖症を求めるのか?

梨さんも参加しているアンソロジー『令和最恐ホラーセレクション クラガリ』。

――梨さんのホラーといえば、ネット文化を背景にした最先端の恐怖表現というイメージが強いですが、「恐怖症店」は昭和を思わせる時代を舞台にしていて、むしろアナログな手触りです。

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 1960年代から70年代くらいをイメージしています。恐怖症店をどこに出現させるか考えて、もちろんSNSなどの現代的なガジェットを使うこともできたんですが、それだと描かれる恐怖が現代的で、やや範囲の限られたものになりそうな気がしたんですね。それよりはもっと普遍的な恐怖を扱いたかったので、携帯電話もパソコンもまだない時代を舞台にしてみました。あの時代のレトロな雰囲気、経済成長の裏側にある闇のような部分は、むしろ若い読者にも響くんじゃないかと思います。

――なぜ少女がくり返し恐怖症を求めるのか、という部分がこの作品の肝。恐怖をネガティブな感情と捉えるのではなく、救いとして扱っているところに梨さんらしさがあります。

 書いていてこの少女がちょっと羨ましいなという気がしました。恐怖はとても強い感情ですが、それだけに別のことを考えたり感じたりしないですむ、という救いにもなるんじゃないか。これは現代的な悩みでもあるんですけど、逃げられない状況に希望を感じるという心の動きはあってもおかしくないと思います。それが良いか悪いかは別の話として、ひとつの感情だけを追い求めるという生き方は、恐怖以外でも人間は選ぶことがあるんじゃないでしょうか。