壇上で感極まり、固まる……
──先生の生前のエピソードで心に残っていることを教えてください。
古賀 某漫画賞の祝賀会で、さいとう先生が壇上に上がって挨拶することになったんです。先生ってテレビの取材でも全く動じないし、相手がびっくりするぐらい緊張しないんですよ。ご自分でも「全然緊張せんのや」っておっしゃってたんですけど、その時は壇上に上がった途端、固まっちゃったのか、全然喋れなくなった。後でお聞きしたら、帝国ホテルの大広間が人で溢れているのを見て、感極まったそうなんです。今まで頑張ってきた漫画という業界がようやく一人前になった……そう思ったら、ぐっと来ちゃったんだ、とおっしゃってました。
──他にはどんな思い出がありますか?
古賀 先生とはよく映画の話をしましたね。時代劇がお好きなんですが、観るポイントが独特でした。例えば、黒澤明の『用心棒』では「はしごの汚れ具合がリアルでいい」とおっしゃっていました。具体的なシーンを切り取って話されるんです。先生はよく「巻き戻せる」とおっしゃっていました。脚本を読むと、絵コンテが頭に浮かび、自由自在に巻き戻せるそうです。
──先生が語られた言葉のなかで、特に印象に残っているものはありますか?
古賀 私は学生時代に剣道をしており、剣道では相手との「間合い」が一番大切であり、自分なりの間合いを習得するとランクアップ出来たのを覚えております。さいとう先生も「間合い」についてよくお話をされていました。『鬼平』の劇中に出てくる切り合い時の間合い、『ゴルゴ』での狙撃時の間合い、作品のコマとコマの間合い、脚本での話の流れの間合い……。さいとう作品では「間合い」を大切にしていると常々先生はお話しされていたのが印象に残っております。
──最後に、さいとう・プロの今後について、展望などがあればお聞かせください。
古賀 やはりチームワークというか、団結力が一番だと思います。ですから、今のベストメンバーにちゃんと働いていただければ、という感じですね。今年は『サバイバル』が50周年なんです。これはさいとう先生が描きたくて描いた作品。色々なイベントを行いますので、多くの方に『ゴルゴ』や『鬼平』以外のさいとう作品もご覧いただきたいです。
こが・けん
1961年、東京都出身。美術系大学を卒業後、デザイナーを経て、銃器関係の専門誌の編集にたずさわる。2017年から銃器担当としてさいとう・プロにかかわり、現在、作画スタッフの一員として制作進行を含めさまざまな業務を担当。





