新1年生になる娘と一緒に参加した入学説明会で、主婦・しずかが出会った「りっちゃん」こと金井りつ。娘と同級生のようだが、近くに保護者は見当たらない。もしかして、一人で参加しているのか……?

 コミック『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』(KADOKAWA)は、一時の親切心から「りっちゃん」に手を差し伸べたしずかが、執着されて数々の問題行動に悩まされた末、自身の娘のために選択を迫られる物語だ。

『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』より

「ダ・ヴィンチweb」での連載時はPVランキング1位を獲得するなど大きな注目を浴びる今作が、読者の共感を集める理由とは――。ここでは、作者で臨床心理士・公認心理師の白目みさえさんに話を伺った。

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「どこまで踏み込んでいいのか」多くの人が抱える葛藤

――父子家庭でネグレクトされている「りっちゃん」を通して“放置子”と向き合った今作ですが、難しい問題を真摯に描いていると思いました。どうしてこのテーマで描くことを決めたのでしょうか。

白目みさえさん(以下、白目) きっかけは、実際に私の娘たちの同級生との関わりに悩んだ経験でした。

 明らかな「放置子」というわけではないけれど、約束もなく家に上がろうとする子、冷蔵庫を勝手に開けておやつを食べてしまう子、夜遅くまで外をふらふらしている子、大人の前では愛想がいいのに、子ども同士になると意地悪ばかり言う子……。もちろん、うちの子もよそで迷惑をかけていることはあると思いますが、どこまでが迷惑だと感じてよくて、どこまで対応したらいいのだろうかと、対応に戸惑うことも多々ありました。

 心理士という視点で見れば、「もしかすると介入が必要かもしれない」と思うケースもあったかもしれませんし、実際にスクールカウンセラーであれば「少し注意して見ておこう」と思ったケースもあったでしょう。でも、このときの私は“地域で暮らすただの母親”という立場であり、「どこまで踏み込んでいいのか」「声をかけるべきなのか」迷いが生じました。

――主人公の主婦・しずかも「りっちゃん」への対応に悩んで、一人で抱え込んでしまいますよね。

入学説明会に1人で参加した「りっちゃん」を気遣うしずかだが…

白目 おそらく、専門職ではない多くのお母さんたちも、同じような葛藤を抱えているのではないかと思います。「これはよくあることなのか、それとも何か対応が必要なことなのか」。その判断がとても難しい“微妙なライン”を、作品のテーマに据えたいと思いました。

 作品自体は完全なフィクションですが、心理士としての相談経験、自身の子育て、知人の話、そして幼い頃に出会った“いろんな子”たちとの記憶を、総合して描いています。

 決定的なトラブルが起こる前の、でも、じわじわと困り続けている状態。その曖昧な不安を、誰にも言えずに抱えている方にとって、「自分だけじゃない」と感じてもらえるような、気持ちを整理するきっかけになるような作品になればと願っています。