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「尊師」はどう描かれてきたか? 実娘から村上春樹までの「麻原彰晃」

2018/07/10
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麻原彰晃を、人々はどう眺めたか

 最後に青沼陽一郎『私が見た21の死刑判決』(文藝春秋・2009)を。青沼には『オウム裁判傍笑記』(新潮社・2004)という名作があるが、ここでもオウム事件について書いている。そしてあとがきで、オウム裁判で村上春樹をよく見かけたことを記す。村上にはオウム関連のノンフィクションとして『アンダーグラウンド』(講談社1997)、『約束された場所でーunderground2』(文藝春秋・1998)があるが、小説『1Q84』(新潮社2009-2010)の刊行時に新聞のインタビューで、オウム裁判がこの作品の出発点であり、林泰男死刑囚に関心を持ったと述べていることを青沼は紹介する。そしてこう続ける。
       
「みんなで同じものを眺めてみても、その人の感性や思い込み、能力や才能によっても、まったく違った見識が生まれ、それぞれの作品や結果が出来上がる」。

©時事通信社

 裁判を傍聴する者、修行を経験してみる者、実の娘、兄と話し込んだ写真家、知識人、小説家……、オウム事件を書く者も様々である。そして麻原彰晃をみて、うさん臭いと思う者もいれば、違うことを思う者もいた。その後者のひと握りと、麻原彰晃とが巻き起こした惨劇の結末がいま、進行している。

「尊師」はどう描かれてきたか? 実娘から村上春樹までの「麻原彰晃」

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