本当に「黄金の馬」が存在した

 郊外のベデウ・ヒッパドロム(競馬場)に到着し、室内練習場の中に足を踏み入れると、パカパカと1頭の馬が近づいてくる。驚いたことに本当にゴールデンに輝く金毛の馬であった。「ほら! 本当に金でしょ?」と、Sさんは鼻をふくらませた。

黄金の馬、アハルテケ。光の当たり方よって色の見え方が変わる

「おもしろい逸話があるんです。かのフルシチョフがエリザベス2世にこの馬を贈った時、女王付きの調教師が馬の体を洗うように部下に命じたのだとか。金の塗料がついていると思ったようです」

 アハル・オアシスと地元の部族名の「テケ」にちなんで「アハルテケ」と名付けられたこの黄金の馬は強くて持久力もあり、昔は部族同士の戦いや遊牧で活躍していたらしい。しかし、次第に数が減ってしまい現在、世界に3500頭ほど。

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金色以外にも黒や白、ベージュなどの毛色を持った個体が存在する

 政府は純血を守るために手を尽くしているそうだ。今では、お金持ちが馬術用やペットとして大事に飼っている。シュッとしてつややか、高貴な雰囲気はまさに馬界の王子そのものだ。

「アナタも馬に乗ってみる?」

 見とれていたら調教師の人が声をかけてくれた。王子に乗っていいの? あぶみに足をかけようものなら「この庶民め!」と後ろ足で蹴られそうな気がしたが、私のような者にも王子は優しく慈愛の目を向けてくださる。金のタテガミはキラキラと煌めいていて優雅な足並みだ。

かつて金色のアハルテケを贈られたエリザベス2世付きの馬の調教師は、金の塗料がついていると勘違いして、部下に馬の体を洗わせたという逸話も

実は日本にも数頭いる

 後日談だが、実は日本にも今、数頭いるらしい。何だ、いるのか。と思ったがひとケタならパンダと同じくらい貴重だ。競馬好きの友人が府中競馬正門前駅にアハルテケの金色の像があり、渋谷のハチ公のように待ち合わせ場所として重宝されていると教えてくれた。

 なぜサラブレッドではなくアハルテケなのか謎だが、日本でも知る人ぞ知る憧れの馬なのだろう。パカパカと王子に揺られながら、トルクメニスタンは絵具箱のような国だと思った。

 青い空に褐色の砂漠、真っ赤な地獄、白く輝く街、そして黄金の絨毯に馬。「眉毛と荒野と中央アジアの北朝鮮」という荒ぶるイメージが鮮やかな色に塗り替えられていく。この国にいられるのもあと少し。この後もどんな色彩を見せてくれるのか。

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