本にもなったネット怪談

三津田:あっ、僕それやりました。『恐怖のネット怪談』というタイトルで、『幽霊物件案内』と同じく「ホラージャパネスク叢書」の1冊として出しました(笑)。

 ただ、僕があの本をつくったのは、ずばりソフト費を抑えるためでした。勤めていた出版社が当時あまりいい経営状態ではなかったので、とにかくソフト費を抑えようと考えて、なんでも自分でやっていました。とはいえ、さすがに原稿料だけはどうしようもない。『ワールド・ミステリー・ツアー13』もラストの13章だけは編集部編にして、僕が原稿を書いていました。好きだからいいんですけど、サービス残業の最たるものだったかも。さすがに続けるのがしんどくなって、 一冊まるごとソフト費をゼロにするためには、もう素人に協力を求めるしかないと考えたわけです(苦笑)。

 まず個人がやっている怪談系のサイトを見て回りました。まったくの玉石混交の中で、レベルの高いサイトを選んでいって、最終的に3つに絞って連絡を取って、もう最初から「お金は出ません。謝礼としてできた本を差し上げます」とはっきり伝えました。幸いにも皆さんからOKをいただいて、本にできました。

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 怪談系のサイトの人たちは、匿名が多いですよね。あまり自分が表に出たくないというか。それを特に感じたのは、できた本を送るときでした。住所と本名がわからないと送れないのに、それを教えるのさえ嫌がる雰囲気があって驚きました。

三津田信三さん

司会:そのサイトをやってた方たちとは、その後も交流を?

三津田:いえ、もう完全に仕事で見ていただけでした。夜中まで会社に残ってずっと。もちろん怖いし、面白かったですよ。だけど、あくまでも仕事でしたからね。本が出た瞬間にすべて忘れたという感じです。またやろうとも思いませんでした。

:確かその3つのサイトの中に「Ghost Tail」っていうのがありましたよね。いま見たら2015年で更新が止まっちゃってますね。あとは「きょうふの味噌汁」と「妖怪百物語」ですね。

三津田:僕は自分で編集した本も執筆した本も一切読み返しませんから、いま目を通したら果たしてどう思うかなぁ。『幽霊物件案内』も文庫本の解説を書くために、なんと25年ぶりに読み返しました。

小池:私もそうです。本が出たらそこで一旦区切らないと。自分ではもう「お腹いっぱい」という感じになりますからね。

三津田:もう作品になって刊行されているので、あとは読んだ人の判断に任せよう、という感覚ですね。