右肘の靱帯を痛めた米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手が手術を回避し、まずは打者で復帰を果たした。だが投手としての復帰時期は未定で、予断を許さない状況が続く。

 肘関節で骨と骨をつなぐ靱帯の負傷は、投手につきものと言っていい。ヤンキースの田中将大投手は2014年に右肘の靱帯損傷で長期離脱し、カブスのダルビッシュ有投手はレンジャーズ時代の2015年に右肘靱帯を再建する「トミー・ジョン手術」を受けている。

 大リーグの各球団はチームの浮沈を握る投手のけがに、どのように対処しているのか。一般的な手術や注射以外に、ドナーからの移植、人工素材を使った補強、リーグを挙げての予防法探しなどさまざまな策が講じられている。

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投手として、故障前、最後の登板となった6月6日のロイヤルズ戦 ©getty

自分の血液成分を患部に注射する

 大谷は6月初旬にPRP注射という治療を受けた。大リーグ公式サイトによると、渡米前から右肘の内側側副靭帯に小さな損傷があり、昨年10月にも同じ治療を受けたという。PRPとは「platelet-rich plasma(血小板を豊富に含んだ血漿)」。患者から採った血液を分離し、血小板を多く含んだ血漿を抽出して患部に注射することで、治癒を早めるとされる。

 現在の球界では一般的な治療だが、自分の血液成分を患部に注射する治療法が報道によく登場するようになったのはここ5年ほどだ。

 2011年のシーズン後にアレックス・ロドリゲス(ヤンキース)がPRPに似た消炎治療をドイツで受けた際には、(ロドリゲスに薬物使用疑惑があったからでもあるが)ちょっとした騒ぎになった。キャッシュマン・ゼネラルマネジャーは当時、AP通信に対して治療の正当性を説明し、世界反ドーピング機関(WADA)が認めている治療法だと強調している。

ヤンキースの大黒柱として活躍する田中 ©getty

 大谷にとっては、PRP注射による治療で同じけがから復帰した田中が心強い先例になる。田中は大リーグ1年目の2014年7月上旬に右肘内側側副靭帯の部分断裂で離脱したが、同年9月終盤に復帰。今季までエース級の働きを続けている。

 切れた靱帯が自然治癒して元通りになるわけではないが、部分断裂なら投球に耐えることもある。つまり田中が昨季まで2年連続で規定投球回数を上回る活躍を見せているのは、傷ついた靭帯に十分な強さがあるからである。ただ大谷の靱帯の損傷が田中と比べてどの程度であるかは分からず、投手としては「予断を許さない」と言わざるを得ない。