JR東日本沿線は「ナイトエコノミー」需要が高い
そんな中、JR東日本の夜行臨時列車の需要を探すと、夏であれば長岡まつり大花火大会(8月)、大曲花火大会(8月・10月)、青森ねぶた祭(8月)、秋田竿燈まつり(8月)、福島わらじまつり(8月)、仙台七夕まつり(8月)などがある。
やや8月に偏りすぎているけれども、この他にも弘前さくらまつりが4月から5月、「日本一の山形芋煮会フェスティバル」が9月に開催される。ほかの季節も紅葉や雪に関するイベントがあり、挙げればキリがないほどだ。これらの祭りを網羅するだけでもシン夜行列車の行き先はある。
今まで「夜間の保守時間の確保」が夜行列車の阻害要因とされていた。しかし近年は「働き方改革」や「安全確保」の理由で、線路保守を日中に実施する路線も増えている。
日中の保守工事はローカル線によく見られるけれども、東京でも渋谷駅の改良工事、羽田空港アクセス線の分岐整備などで日中の大型運休が行われている。事前の周知を含めて計画的にできれば、幹線でも夜間の保守作業を日中に移行して、空いた時間を夜行列車に振り向ける工夫ができそうだ。
JR東日本が「東北」に狙いを絞ったワケ
さまざまなナイトエコノミー需要があることに加え、JR東日本が東北に向けてシン夜行列車を送り出す理由は、前向きに言えば「もっとも伸び代のある輸送需要」だからだ。
逆に言うと、首都圏の人々が旅行先としてJR東日本エリアを抜け出してしまっている。JR東日本のエリア内にたくさんいる人々は現状、ザルから水が漏れるが如く、中部、関西などほかのエリアに行ってしまう。
国土交通省が公開している「観光白書(令和7年版)」によると、国内旅行者の目的地は1位が関東、2位が近畿、3位が中部だ。宿泊旅行でそれぞれの地域を訪れた居住者を見ると、関東の1位が関東在住で50.6%。近畿と中部の1位もそれぞれ関東在住(31.1%、39.7%)となっている。
これをざっくりと俯瞰すると、JR東日本沿線の人々が国内を旅するとき、関東~近畿なら大手私鉄やJR東海の東海道新幹線がJR東日本にとって競合相手になるし、それより遠いところ(中国、四国、九州、北海道など)へ向かう人は羽田空港や成田空港へ行くから、JR東日本にとってうまみはない。
そう考えると、必然的にJR東日本に残された“主戦場”は、沿線でもある東北になる。東北新幹線、秋田新幹線、山形新幹線などは東海道新幹線に比べてビジネス需要が小さく、観光客の利用が多い特徴がある。JR東日本としては何としても自社エリアの東北地方に観光客を送り込みたいわけだ。



