山崎さんはそう言い切る。裁判所とのやり取りに関わる情報は厳密に扱う一方で、確定記録については基本的に公開してきたという。ただし、その線引きは慎重だ。

「確定記録は誰でも見られるものですからね。再審請求の中で新たに出された証拠については、弁護団が公にしない限り、私たちは出さない。特に微妙な段階での情報発信は、必ず弁護団に相談しました。弁護団がオープンにすれば、私たちも自分たちの見解を示す。それが支援者としての役割だと思っています」

一方、踏み越えてはいけない一線があると山崎さんは言う。

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「被害者遺族には一切接触していません。それは、傷口に塩を塗りつけるようなものだと思うんです。強い刷り込みがあるでしょうし、被害者感情を逆なでするようなことは絶対にしてはいけない」

袴田さんを支援する活動は、あくまでも冤罪の疑いを晴らすためのもの。それが山崎さんの一貫した考え方だった。

山崎さんが袴田事件に関わり続けた30年以上の歩みは、最初は「素朴な疑問」から始まり、やがて弁護団を動かし、世論を揺るがし、最後は判決を覆す原動力となった。その軌跡は、和歌山カレー事件に関わり始めた私自身に深い示唆を与えてくれる。

袴田事件がそうであったように、再審を実現するには、多くの支援者が声を上げ、世論を動かすことが不可欠だ。そのためには「情報をオープンにし、できることを積み重ねる」しか道はない。

二村 真弘(にむら・まさひろ)
ドキュメンタリー制作者
1978年生まれ。ドキュメンタリー制作者。日本映画学校(現・日本映画大学)を卒業し、2001年よりテレビ番組の制作に携わる。2024年、和歌山カレー事件の冤罪の可能性を追求したドキュメンタリー映画『マミー』で社会とメディアに問題提起。
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