古村比呂が背負う“朝ドラヒロイン”の宿命
唯一無二の新鮮材料・古村比呂はオーディションで抜擢されたが、チーフディレクターの清水満は当時「演技はまだまだですが、笑い顔の良さは抜群でベテラン俳優を圧倒しています」と評価していた(NHK出版『NHKドラマ・ガイド 朝の連続テレビ小説「チョッちゃん」』より)。
確かに底抜けに明るく透明感があり、元気だった。第1話、雪の北海道をずんずん歩いて途中で滑って雪のなかに倒れ込む場面をまさに体当たりで演じていて、ドラマを活気づかせていた。
最近の文春オンラインのインタビュー記事にあるように、古村は2010年代に入ると癌で闘病生活を送り、現在に至っている。あの明るかった朝ドラヒロインが闘病していることは同じ病気に悩む人達をはじめとして、悩み多き人たちの希望になっている。あれから40年近くたっても彼女はヒロインの宿命を背負って見える。
実話を見事に再構成した脚本
『チョッちゃん』の魅力は物語の強度にもある。黒柳朝の原作『チョッちゃんが行くわよ』は1章1章が短い短編で、経験談がさらりと書いてあり、ドラマは金子成人が短い文章を膨らませている。
見事だったのは、ロシア人のパン屋のエピソード。原作では、パン屋と出会い美味しいパンに朝と学友たちが夢中になった思い出が書かれている。その前に、勝手に写真を販売された思い出も書いてあるが、それはそれぞれ独立した思い出だ。『職員会議の話題の主』の章(単行本51ページ)の「思えば、いろいろ事件をおこしました」のいろいろのひとつに過ぎない。『チョッちゃん』ではこのふたつを鮮やかに繋げている。
「女性の貞操観念」を糸にしてエピソードが繋がった。ある日、チョッちゃんがロシア人のパン屋という独身男性の家にひとりで入ったことを神谷(役所広司)と校長(津嘉山正種)が心配する。校長は秩序秩序と口うるさく、神谷先生は理解を示す。だが、その後、蝶子が扇情的な写真モデルになったとまた一悶着。
令和の価値観からしたら全然問題視するような写真ではないのだが、当時の価値観では女性が小首をかしげてアップで写っているだけで大騒ぎになる。しかもその写真を他校の男子生徒に配布していると噂が広まっていた。
