白黒写真に写っている少年が年を重ねて目の前にいらっしゃって、お話もできるなんて。今までカラー化写真を通じて、沖縄戦の記憶と我々が生きる今を繋げるきっかけづくりがしたいと思って活動してきましたが、当時を生きた方にお会いできたのは初めてで本当に貴重な体験でした。山内さんに写真と同じ場所に立っていただいて、同じ構図で撮影もさせていただいたんですよ。取材の空き時間を使って、個人的にお願いしました。

1945年の山内輝信さん(沖縄県公文書館所蔵/ホリーニョさん提供)
現在の山内輝信さん(写真=ホリーニョさん提供)

――同じ人の同じ場所での定点撮影は時々SNSなどで見かけますが、沖縄戦中の写真との対比はほんとうに貴重ですね。

ホリーニョ 過去と現在との定点撮影という手法は、カラー化写真で感じるのとはまた違った“地続き感”を抱かせてくれますよね。

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 山内さんとお会いして、白黒写真をカラー化してSNSで公開しているだけの時とは違って、沖縄戦が自分にとって遠い場所の遠い時代に起こった出来事ではなくなってきているとも感じました。

沖縄の女子中学生から届いたうれしいメッセージ

ホリーニョ 『カラー化写真で見る沖縄』を出した反響として想定外だったのは、沖縄の小中学校の図書館司書さんたちが平和学習に活用したいと声をかけてくださって、カラー化写真のパネル展を行う動きが沖縄県内の40校に広がっていったことです。小中学生の皆さんに見ていただく機会が生まれたのは、本当に嬉しいなと思いますし、ご活用いただいてありがたいです。

 こちらの写真でタバコを吸う女性の手には、かつての沖縄の風習である、若い女性が手の甲に彫る「ハジチ」という入れ墨があります。

1945年4月3日 米軍の侵攻によって家を追われた人々。アメリカ製のタバコを吸う女性の手には、入れ墨(ハジチ)が見える。沖縄本島にて(沖縄県公文書館所蔵/ホリーニョさん提供)

 成人儀礼や魔除け、子孫繁栄など様々な意味があるそうです。明治時代に政府から禁じられたため、現在はハジチを入れている方はほとんどおられませんが、白黒写真には時々ハジチを入れている女性の方が写っています。

 那覇の中学校を講演で訪れた際に女子生徒さんから「ハジチが写ったカラー化写真を見て『こんな風習が沖縄にあったんだ』と知り、自分でインターネットで調べて勉強しました」というメッセージをいただきました。「沖縄独特の文化がなくなってしまわないように学んでいきたい」とも言ってくださって、そういうきっかけに関わることができたのは本当に嬉しいですね。

――自分の住んでいる土地の知らない文化に初めて触れる瞬間だったんですね。

ホリーニョ 僕より上の世代は白黒テレビを経験していたりとか、白黒の映像に触れる機会がまだあったと思うんです。でも今の若い方々、特に小中学生は白黒写真を見慣れていないので想像以上に距離を感じるようですね。中学生の方からいただいたカラー化写真の感想で印象的だったのが「白黒写真では当時の沖縄の空は灰色だったんだとぼんやり思ってました。今と同じ青色だったんですね」というものです。

 白黒写真を活用してもなかなか子どもたちにうまく伝わらない。そういう課題意識が教育現場にもあると先生方から教えてもらいました。貴重な白黒写真をそのまま活用して理解できるのが本当は一番良いとは思うんですが、現在のメディア環境を踏まえるとカラー化することには一定の効果があるんだなと思っています。

 それで言うと、最近では沖縄の一般のご家庭に眠っているお写真をカラー化する活動も始めたんです。