被告30人が無罪を主張
同紙の初公判の記事も「ずらり丗(三十)被告 世界の注目あびて出廷」(九大関係者2人が加わり被告は30人になっていた)の見出し。本文はこうだ。
戦慄すべき数々の残虐性を示した本事件の審理には、さすがに全世界の耳目が集中し、開廷前から廷内には内外の傍聴者、カメラマン、新聞記者らが詰め掛け、緊張の中に被告の長男や妻ら二十余名の被告関係者の不安げな姿も。皆、沈鬱な表情だった。
開廷30分前、初の日本人女性被告、九大第一外科看護婦長(32)がカーキ色に紺が混じった上着、水色のスカートで案外元気な姿を見せれば、続いて横山、稲田両元中将以下の全被告が定めの被告席に着く。しばらくは煌々たる明光の下にカメラマンの動きが慌ただしく、大裁判開廷の興奮がみなぎった。
かくて定刻9時半、ジョイス軍法委員長のおごそかな開廷宣言があり、サイデル主任弁護人が日本人弁護人11人を紹介。フォン・バーゲン主任検事によって起訴状が朗読され、ここに秘密のベールに包まれた事件の審理が開幕した。
「不当に8人を殺害」「捕虜の虐待死体を冒涜」
読売を含めた各紙によれば、弁護側は「人肉嗜食を戦争犯罪とする戦争法規や慣習はない」としてこの部分の削除を要求。却下されると、生体解剖事件との分離を求めたが、これも却下された。罪状認否では被告30人全員が無罪を主張した。罪状については読売が詳しかった。
▽生体解剖 西部軍11人、九大13人
1.被告らは昭和21年6月、故意かつ不当にも米飛行士12人のうち8人を殺害
2.8人を生体解剖に付した
3.捕虜の虐待死体を冒涜した
4.埋葬の怠慢
5.軍法会議にかけずに処刑した
6.捕虜8人を九大に不法拉致した
7.正式な捕虜取り扱い規定を無視した
8.捕虜逮捕とその生死に関し、米政府になすべき情報提供を怠った
9.捕虜は昭和20年1月30日の空襲で死亡したと虚偽の報告をした
▽人体試食 軍医、歯科技術者ら6人
被告らは西部軍将校クラブ(偕行社病院食堂)で捕虜8人(1人の誤り)の肝臓を醤油で味をつけて試食した
横浜BC級裁判は東京裁判と違って司法的な裁判ではなく、裁判の主体は各国の軍事委員会で、判事は全員軍人。読売も含め、各紙の記事が「軍法委員長」としているのはそのためだ。軍の司法機関ではなく行政機関なので、司令官の命令で審判結果が執行されるが、一方で減刑されることもあった。



