辻田 歴史は常に現在の視点から再解釈されるものですからね。当時の対米関係をベースにしているのであれば、トランプの登場で米国自身が変わっていくなかで、日本の歴史観も変わっていくのが自然です。
與那覇 ただ、それでも僕は、東京裁判は非常によくできた“フィクション”だったと捉えたい。「共同謀議」に関わった“悪い奴ら”の中に、あえて昭和天皇を入れなかった。「天皇と日本国民もまた、騙された被害者だった」というフィクションを創作し、手打ちを可能にした。この春に上梓した『江藤淳と加藤典洋』でも論じましたが、そうした「免責の物語」を、戦災に遭った日本人自身が求めたからこそ定着したんです。
靖国問題がなぜこじれるのか
辻田 日本が連合国中心の国際社会に復帰するためには、判決を受け入れるしかなかったわけですね。
浜崎 とはいえ、今や米国への忖度が効かない時代です。だからこそ、あの戦争をどう捉えるのかを足元で問う必要があるんでしょう。
與那覇 国際政治の観点では、東京裁判で最も重要なのは、その物語を裁判に加わっていない中華人民共和国も受け入れたことです。
当時、連合国に入っていたのは中華民国(現・台湾)の方ですから。1972年の日中国交正常化の際、中国としては「東京裁判での“手打ち”は、蒋介石が勝手にやったことだ」と突っぱねる選択肢もあったけど、国際社会で機能しているフィクションだからと乗ることにした。
つまり彼らの視点では、ここで大きな妥協をしている。A級戦犯を祀る靖国神社への首相の参拝を許容しないのも、あの時ずいぶん譲って「同じ物語」に乗ったのに、後から手のひらを返すのはダメだよと。
※この記事の全文(約1万字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年9月号に掲載されています(徹底討論「令和の天皇論」)。全文では、下記の内容をお読みいただけます。
天皇は国民の方を向いていたか
「宗教国家」だった戦前の日本
天皇が生きる時間軸
靖国問題がなぜこじれるのか
「英米本位の平和主義を排す」
フィクションとしての歴史
皇室の存続問題
国民の「納得感」の問題
座談会を収録した動画版「昭和天皇の戦争責任を考える」もYouTubeで無料配信中。担当編集者が裏話をつづった編集部日記「被曝3世が聞いた気鋭の論客たちの『天皇論』」とあわせてご覧ください。
出典元
【文藝春秋 目次】大座談会 保阪正康 新浪剛史 楠木建 麻田雅文 千々和泰明/日本のいちばん長い日/芥川賞発表/日枝久 独占告白10時間/中島達「国債格下げに気を付けろ」
2025年9月号
2025年8月8日 発売
1800円(税込)





