ロシアW杯の取材を終え、夜遅くに帰国した。翌朝、時差ボケのため早く目覚めテレビをつけると、そこにはロシア・カザンでの合宿最終日に涙した吉田麻也の表情が映っていた。

 右上のテロップには、「長谷部誠が代表引退。次期主将候補の吉田麻也に期待」と書かれている。その情報番組の特集は十分近く続いた。

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 大会中は、DFというポジションらしく黒子の存在として扱われていたように感じる。日本国内の報道も、ゴールを挙げた大迫勇也や乾貴士、代表引退を示唆した本田圭佑らに焦点が当てられたものが多かったと聞く。私も現地では吉田個人の記事を書く機会はほとんどなく、勢いに乗るチームや選手個々について連日記していった。

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 だからこそ、日本代表が敗退直後のこの特集をものすごく意外に感じた。そして、吉田がこの大会をどんな思いで戦っていたのか、ここできちんと記したいと思ったのである。

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吉田麻也の涙のわけ

 なんと言っても、涙が印象的だった。吉田を取材し始めたのは、まだ彼が十代のころ。いつもは明るくおしゃべり好きの青年も、実は情にもろい一面がある。とはいえ、彼の左目から涙が浮かんだ瞬間、眼前にいたこちらも胸が熱くなった。

 あの涙には、わけがある。話題は長谷部の代表引退についてだったが、すすり泣きながら吉田はゆっくりこう言葉を紡いでいる。

「……本当に素晴らしいキャプテンで……僕も7年半、彼と一緒にやってきましたけど。本当にあれだけチームのことを考えてプレーできる選手は少ないでしょうし。ずっと彼を見て、彼の姿勢から学ぶことがたくさんあった。そしてこの大会が終われば、長谷部さんだけじゃなくて、長くやってきた選手たちとプレーできなくなるという覚悟はあった……わかっていたはいたことですけど、本当に公私共に長く一緒にいる時間があって、みんなと仲良くさせてもらってきた。さびしいですね」

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 7年半。吉田が2011年1月に代表に定着してからの月日だ。長谷部だけではない。川島永嗣、本田圭佑、長友佑都、岡崎慎司、香川真司。吉田を含むこの7名が、今回のロシアW杯までの長い期間で、共に酸いも甘いも味わってきた。

 戦う集団。もちろん、ただの仲良し小好しの集まりではない。それでも、代表戦士も一人の人間。長く集えば、自ずと情が湧き、人として距離が密になる。2014年ブラジルW杯で味わった悔恨も相まって、彼らの覚悟と結束が今回の西野ジャパンの原動力になっていたのは間違いない。