本田圭佑との名古屋時代の思い出
そして、最後に本田である。
二人の関係は実に10年を有に超える。本田が名古屋にプロ入りし、選手寮に入ると、そこにはユースでプレーしていた高校生の吉田がいた。
食堂の横に置かれた、ビリヤード台。若き二人は勝負し、吉田が「僕が勝ったら、ipodをください!」とねだった。そして、結果は吉田が勝利。負けず嫌いの本田は悔しそうな表情をしていたが、後日きちんと後輩にプレゼントを渡した。
「実はそのipod、それから数年後の韓国遠征の時になくしてしまったんですよ・・・これ、本田さんにはまだ言ってなかったと思います」
笑いながら思い出話をする吉田。多くの選手と普段から交流する彼だが、本田とは、実はほとんどプライベートでは連絡を取ることはない。
「誰がどう見ても、性格は違いますよね。もちろん代表合宿に行けばよく話すし、練習でコンビを組むことも。昔から本田さんはよくしゃべりますけど、それは今も同じで。合宿の初日、二日目ぐらいまでは『やっぱり本田さん、刺激的な話をするな』と思うんですけど、それ以降は僕はお腹いっぱいな感じです(笑)」
そんな吉田は、本田を若かりし頃から知るからこそ、今でも代表メンバーでゲームをする場合、積極的に本田をイジる側に回ることも。若い選手がどうしても遠慮しがちな中、率先してツッコんでいくことで場を和ませる。それができるのも、長い付き合いだからこそでもある。
大会前、本田に対しては代表不要論が叫ばれたこともあった。その時、吉田に率直に意見を聞いたことがあった。
彼は言葉を選びながらも、はっきりとこう答えた。
「選手を選ぶのは監督ですから。だから同じ選手の僕が何かを言う権利はないです。ただ、これはあくまで僕個人の意見を言わせてもらえば、本田圭佑という選手はW杯23人のメンバーに絶対に必要だと思います。
何より、僕は誰よりも本田さんが十代の頃からどんどん上手くなっていく姿をずっと今まで見てきた。そしてあの勝負強さは、誰にでもあるものではない。本田さんには、一発がある。それはW杯という舞台で、絶対に必要になる瞬間がやってくると思うんです」
セネガル戦で本田が同点弾を決めた、あの場面。記者席に座りながら「千両役者がやっぱり決めたか」と思った次の瞬間、この言葉がすぐに頭に浮かんだ。
吉田の本田に対する見立ては、正しかったのだ。上っ面の仲の良さなど関係のない、選手として高い次元で交錯するリスペクトの感情がそこにあった。