代表の次期主将の声に本人は……
人のつながり。
吉田が公私で、とても大切にする生き方である。例えば、記者との付き合い方一つにしても、私以外にも名古屋時代から取材を続ける先輩記者たちに、彼は今でもよく気を配る。人を慮る言動は、選手同士や身内だけにではない。簡単そうに見えるが、さまざまな人間関係に苛まれる社会を生きる大人であれば、誰にでもできる姿勢でないことはわかるだろう。
だからこそ、あの涙に詰まった情も、とても多感なものに見えた。
そして、そんな吉田が、長谷部なき代表の主将候補として世間では挙がる。まだ色白く、軟弱な印象だった4年前の大会から、今や髭を蓄え、プレミアリーグ仕様に体も大きくなった。そして今大会で見せたプレーは、過去と比較にならないほどの安定感でもあった。
機は熟したのかもしれない。今度は、誰よりもコミュニケーションに長けたこのDFが、日本代表を名実ともに支える立場になる――。
本人は、あくまで殊勝な姿勢を貫く。
「どうあがいても長谷部誠にはなれない。なかなかああいう選手の後の主将はやりづらいので、誰かやってくれないかなと思います(笑)。でも、決めるのは監督なので」
ただ、次なる代表について質問が飛んだ時に発した一言に、強さと決意がこもった。
「立ち止まっては、いけないと思います」
同じ志を持った仲間たちとの、長きに渡る戦いはここで終わる。新たな日本代表が誕生すれば、また選手は刷新されるのが常である。
吉田も、再び競争の渦の中に身を投じる。今度、代表に選出される保証はどこにもない。
彼は選手としてだけでなく、人としてもどんどん深みを増してきている。
心身ともに戦う。それがサッカー、それがスポーツであれば、その集団に今の彼のような存在は頼もしく、心強い。
成し遂げられなかったベスト8と、流した涙。吉田麻也は、それを拭い、もう一度高い壁に挑戦するにふさわしい選手である。