明子 でも、編集も見事だったし、回る傘のアップでつなぐところもいいアイディア。
和哉 市川崑さんはCM調とコメントしてた。手堅くまとまっているとは思うけど。
明子 監督らしいポジティブなイメージで、よく完成された作品なんじゃないですか。
和哉 1980年当時、『いつでも夢を』という曲はもはやレトロだった。実はPFFで入選した『錆びた缶空』という松井良彦さん(注2)が撮った映画が『いつでも夢を』を使っていたの。
明子 そうなんだ。
和哉 ゲイの話ですごくハードな話にあの曲が流れるというギャップ狙いで。映画もすごいなと思ったけど、「こんな能天気な曲があるんだ」と驚いた。その曲を僕は素直に明るいミュージカルに使ったわけ。
明子 ラストカットの合成は難しかった?
和哉 男の子が歌っている空の部分に女の子が浮かんで見えるというね。これは『グリース』の「想い出のサマー・ナイツ」というナンバーのラストカットを真似した。これがすごく難しくてね。男の子を先に撮って、フィルムを巻き戻して黒バックで女の子を撮るんだけど、露出がすごく難しい。女の子を撮る時に、露出を開け過ぎると後ろの黒紙がバレてしまうし、閉めすぎると女の子の顔が薄くなっちゃう。その上、露出がオッケーな時は二人の口がズレていたりするわけですよ。コマ単位で正確に巻き戻さないと合わないので。だから、本当に10回ぐらい撮り直してようやく成功した。現像して上映を見て落ち込んでまた撮り直してと、延々やってました。
注釈
1)利重剛 映画監督、俳優。『教訓Ⅰ』(1981)でPFF入選。代表作(監督):『ザジ ZAZIE』(1989)、『BeRLiN』(1995)、『さよならドビュッシー』(2013)など。
2)松井良彦 映画監督。代表作:『豚鶏心中』(1981)、『追悼のざわめき』(1988)。新作『こんな事があった』は9月公開予定。
<聞き手>こなか・あきこ 東京都出身。慶應義塾大学在学中は演劇研究会に所属。その仲間が製作した8ミリ映画に出演し、映画作りの面白さに惹かれる。株式会社ピーエスシーにて大林宣彦監督作品『ふたり』『青春デンデケデケデケ』『はるか、ノスタルジィ』『花筐/HANAGATAMI』『海辺の映画館―キネマの玉手箱』の制作デスクを担当。株式会社Bear Brothersでは小中和哉監督作品『くまちゃん』『赤々煉恋』『Single8』製作。
