明子 日数オーバーなんてできないし。
和哉 そう。その時にプロの体制で撮るということは、妥協しないといけないことだと気付いた。ベテランスタッフの方からは、「いいホンなんだから、こんな予算で撮っちゃいけないよ」と言われましたけど。カメラマンの志賀葉一さん(注1)とはすごく理解し合えてその後ずっと組んでいくことになるんですけど、『四月怪談』では、僕が作ってきたコンテに対して、「こっちから撮ったらどう?」とかいろいろ提案してくれることに対応できなかった。自分の力だけで全部やろうとする自主映画のやり方から脱し切れてなかったんですね。スタッフやキャストの力で自分のプラン以上のものにしていくのがプロの現場なんだと理解するのは、もっと後のことです。
自主映画体制に回帰して撮った『Single8』
明子 その後もウルトラマンなどいろいろ撮られますが、自主映画にテーマを絞って『Single8』(2022)まで飛ばしましょう。なぜ『Single8』を撮ろうと思ったんですか?
和哉 自分の原点である8ミリ自主映画のことを映画にしたいとずっと思ってました。プロット作りをした時期もあったんだけど、商業映画としてアピールできるポイントがなくて、どこかに出すというところまでは至ってなかったのね。
明子 『カメラを止めるな!』(2018)や『サマーフィルムにのって』(2021)など、映画作りの映画はありましたよね。
和哉 今までも映画作り映画ってあったけど、企画から撮影から仕上げから上映っていう、丸ごと映画を作る過程を描いた映画はないと思って。映画を見るだけで観客が映画を作っている気持になってもらう。映画を見るのは楽しいけれど、映画を作るのはもっと楽しいんだと感じてもらいたかった。
明子 自主映画の話でしたが、作っている現場も自主映画でしたね。
和哉 この映画が実現したのは、一つはデジタル化のおかげ。自主映画も劇場でかけられるようになって、『カメラを止めるな!』のように大ヒットすることもあり得る時代になった。だったら、自主映画で撮るけど、ちゃんと商業映画として公開しようとチャレンジした。あなたもBear Brothersのプロデューサーとして一緒に作ったわけですけど。
明子 下北沢の映画館で上映した後に、学生の男の子が来て、涙ながらに「僕もいつか傑作を作ります」って言った子がいましたね。どうしているかな。
和哉 主人公と同じ気持ちになってね。
明子 8ミリを撮っていた人だけじゃなくて、そうやって若い世代の人にもちゃんと伝わった映画になったのかなと思いますね。
和哉 映画作りのプロセスの根本は変わらないから、映画を作ることの原初的な喜びが若い人たちにも共有できていたらいいですね。

